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テーマ : 選挙しずおか

データで見る男女平等 都道府県指数 政治や教育など4分野【国際女性デー2024】

 8日の国際女性デーに合わせ上智大の研究者が公表した都道府県版ジェンダー・ギャップ指数は政府統計などから4分野の計30指標を選び、世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数に準じた方法で算出した。上智大の竹内明香准教授が統計処理を監修。まず指標ごとに、男性1人に対し女性が何人いるかを見るため「女性の人数÷男性の人数」を計算。各指標の数値が分野全体の指数に与える影響を適正にするため、加重平均した。

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 指数は1に近いほど平等を示し、格差が大きいほど0に近づく。1を超える場合は1とする。昨年との違いは①経済分野で「就業率の男女差」を指標に追加②第1次産業の現状をより反映するため、漁協を加えて「農協・漁協役員の男女比」とし、③「フルタイム以外の仕事に従事する男女間の賃金格差」を除外-の3点。
 一部の指標は割合を比較。都道府県職員の育休取得率では「男性の割合÷女性の割合」を計算した。教育は子ども側の指標である四年制大学進学率を50%、教育業界で働く大人の指標を合わせて50%となるよう重み付けした。
 都道府県の人口比は反映していない。
全国的に改善も均衡は遠く【政治】  政治分野の指数は47都道府県の平均値が0・190。単純比較はできないものの昨年の0・161より若干改善した。静岡は0・2(16位)で昨年の0・172から上昇したが、順位に変化はなかった。 photo03 都道府県版ジェンダー・ギャップ指数 政治  2023年4月の統一地方選を経て、全国的に都道府県議会や市区町村議会などの女性比率の向上が寄与した一方、均衡を示す「1」には遠く及ばなかった。行政、教育、経済を含めた4分野で最低水準の傾向にも変化がなかった。抜本改革に向け、政治活動と育児の両立支援にとどまらず、議席の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」の議論の活発化も求められそうだ。
 都道府県議会の男女比は静岡を含む34都道府県で数値が上がり、統一地方選で当選者に占める女性の割合が22・0%と最も高かった香川が特に伸ばした。市区町村議会も静岡など37都道府県で上昇した。女性議員が一人もいない「女性ゼロ議会」の指数は16道県で改善した。静岡も改善し、残るゼロ議会は河津、南伊豆の2町となっている。
 政治分野全体の1位は3年連続で東京だったが、指数は0・352にとどまった。江東、豊島、北各区長選と東大和市長選で女性が当選し、女性首長が9人に増加。市区町村長の男女比は昨年の2位から1位に上がった。全体2位は神奈川、3位は千葉、4位は大阪、5位は山形と続いた。
 23年4月の衆参補欠選挙の結果も反映された。衆院千葉5区と和歌山1区、参院大分選挙区で女性新人が当選し、衆参両院選挙区議員の男女比の指数が上昇。特に大分は全体順位でも昨年の44位から26位へと最も伸ばした。
 市区町村長が女性ゼロだったのは19県で、昨年より4県減少した。歴代知事の在職年数の男女比は、過去に女性知事が在籍したのが7都道府県に限られるため、静岡も含め指標に「0」が並んだ。

「防災会議」女性依然少なく【行政】  行政分野で男女格差が最も小さかったのは鳥取(0・439)だった。3年連続の首位。福井は女性が副知事に就任し、昨年の5位から2位に上昇した。富山、石川を含む北陸3県が10位以内に入った。静岡は0・260とやや改善したが、順位は32位と昨年並み。 photo03 都道府県版ジェンダー・ギャップ指数 行政  能登半島地震の発生で女性の視点の必要性が再認識されている避難所運営を巡っては、関連する指標は全国的に依然低迷。管理職についても男女で大きな開きがある。
 鳥取は全10指標のうち「都道府県管理職」「都道府県の選挙管理など行政委員会」「市区町村管理職」が1位。富山は育児休業について「地道に声をかけ、取りやすい雰囲気を醸成」(担当者)した結果、男性の職員の取得率が17・2%から36・3%に伸び、順位も14位から8位に上昇した。石川は「市区町村審議会」などが改善し、15位から9位になった。
 上昇幅が最大だったのは長崎。女性が副知事になったほか、男性職員の育休取得率が13・0%から26・0%に倍増し、45位から33位に上がった。
 静岡は10指標のうち、前回順位が全国最低だった県庁の大卒程度採用の男女比は、32位に持ち直した。県庁職員の育休取得率の男女格差は、男性の取得率が50%を超える県もある中、取得率24・3%で前回同様30位と伸び悩んでいる。
 指標別では、避難所運営など地域防災計画を作る「都道府県防災会議」は、47都道府県の指数を単純に平均すると0・294にとどまった。静岡は0・212(28位)。委員に就くのは国の出先機関や警察、消防組織の長らで、男性が多いことが背景にある。
 宮城は、防災会議に多様な意見を反映させるため高齢者や障害者の団体に就任を要請。委員60人のうち女性が16人に増えた。
 「市区町村防災会議」の単純平均は0・128とさらに低かった。静岡は0・097で38位だった。

大学進学率が順位に影響大【教育】  教育分野は校長などの男女比や、男女別の四年制大学進学率によって「教育従事者」と「教育を受ける側」の双方を七つの指標で分析した。ジェンダー格差は広島県が全国最小(0・680)。女性の大学進学率や各学校での管理職登用を改善した県が順位を上げ、いずれも大きな変化がない静岡は0・567(37位)と前年並みだった。 photo03 都道府県版ジェンダー・ギャップ指数 教育  広島は校長の女性比率が小学校で2位、中学校で4位。大学進学率の男女平等度は6位だった。県教育委員会は、育児や介護を経験した管理職が研修で体験を話すなどロールモデルを知る機会をつくり、管理職の女性割合を増やそうと試みてきた。担当者は「現場で地道に取り組んだ成果が出ている」と話す。
 静岡は校長の女性比率が小学校で22位、中学校で26位と振るわない。
 全体順位が大幅に上昇した長野では、県教委が夜間の校内巡回を外部委託するなど長時間労働の是正を進める。県教委は「働きやすい環境が結果的に女性の活躍にもつながる」と説明する。
 長野のほか、岩手、富山、島根、山口が前年から10ランク以上アップした。一方、三重、和歌山、鳥取は10ランク以上順位を下げた。いずれも順位に影響する比重が大きい四年制大学進学率が要因で、男女格差の縮小、拡大が結果に反映されたとみられる。
 静岡の大学進学率の男女平等度は41位と低く、大学が立地しているにもかかわらず男女格差が歴然としている。三浦まり教授は「進路指導など中等教育に課題がある可能性もある」と指摘する。
 大学進学率は男女ともに進学率が低い県もあり、平均所得や地域の大学整備など地域間格差に注目した教育施策が求められる。
 このほか小学校から中学校、高校へと段階が上がるにつれ、校長の女性比率が下がる傾向が全国的にみられた。

働く女性増加も賃金は低く【経済】  経済分野では、就業率の男女比を新たな指標に採用し、これまで取り上げなかった漁協役員の男女比を追加して農協・漁協役員の男女比とした。働く女性の比率が高いのに賃金は男性との差が大きかったり、家事育児時間で女性への偏重が著しかったりする地域があった。職場と家庭双方での格差解消が求められる。 photo03 都道府県版ジェンダー・ギャップ指数 経済  静岡の指数は0・415(42位)。指標の変更で前年と単純比較できないが、全国最下位を脱した。就業率の男女差(17位)や、フルタイムの仕事に従事する割合の男女比(19位)が好要因となった。他方、フルタイムの賃金格差(41位)は他地域と比して大きい。
 福井や石川も同様の傾向があり、女性が入りにくい中小製造業中心の産業構造の影響が指摘される。福井県立大の塚本利幸教授(社会学)は、賃金格差の背景に、給与が高い管理職が男性に偏り「女性は仕事と家事育児の多重負担で、キャリアアップにまで力を注げない」事情があるとした。就業率の男女差が最小なのは沖縄で、フルタイムの仕事に従事する男女の賃金格差も小さい。一方、共働き家庭の家事・育児などに使用する時間の男女差は大きく、経済格差が少なくても、家庭でのケア役割が女性に偏る現状が示された。
 ただ、全国的には男性の賃金が低い地域で平等度が高くなる傾向もあり、地域の産業構造も踏まえて慎重に読み解く必要がある。
 漁協役員は、全国で女性が0・5%と少なさが際立つ。水産庁の担当者は「漁業は長期操業や力仕事が多く過酷で、女性がそもそも少ない」と指摘。女性役員が増えれば「新しい視点が出てくるのでは」と話す。
 社長の男女比は、女性数を男性数で割った指数が全国でほぼ0・1台となり、静岡も0・142(35位)と低調だった。
 共働き家庭での家事育児時間と、企業や法人の役員・管理職の男女比は出典データの更新がなく、前年の指数をそのまま使用した。

変化の兆し 加速化へ 三浦まり 上智大教授  都道府県版ジェンダー・ギャップ指数算出は3年目となり、格差解消へ向けて変化の兆しが見えてきた。人口減少が進む中、女性に選ばれる地域になれるか。危機感は広がり、ジェンダー不平等の現状をどう変え、いかに加速化させるかという段階に来ている。 photo03 三浦まり 上智大教授  大きな変動があったのは、政治分野の都道府県議会だ。昨年の統一地方選では、香川や鹿児島で女性県議が2割を超える躍進を見せた。3割を超えるには政党の再編成や選挙制度の改革がなければ難しく、国政も含め、現職優先の現状が、女性の進出を阻む「岩盤」となっている。
 行政は、知事ら首長のリーダーシップでスピード感をもって変えることができる分野だ。都道府県が率先して男性職員の育休取得を推進すれば、民間への波及効果もある。一方、自治体で女性管理職の割合を高めるには人事慣行や育成過程の変革が必要で時間がかかり、先を見据えて対策を講じる必要がある。
 指標を見直した経済では、就業率やフルタイムの賃金格差などが順位に影響を与えた。今回の指標にはないが、非正規で働く女性やシングルマザーの貧困など、女性の抱える生きづらさにも着目し、社会的な関心をもっと向ける必要がある。
 大学進学率は性差のほか、地域格差も大きい。首都圏や関西圏に大学が集中し、地方では人口減により経営難に陥る大学もある。格差の拡大を防ぐ議論の発展が必要だろう。
 地方からの女性の流出は深刻だ。ジェンダー・ギャップの解消が、住みやすく、働きやすい地域・企業づくりにつながると考える行政関係者や経営者は増えている。誰にとっても魅力的な組織や文化を模索することが、未来を開く鍵となる。

 みうら・まり 上智大法学部教授。「ジェンダーと政治」が専門で、政治分野の男女共同参画推進法の策定に携わった。

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