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首相「訪朝」 難しい判断 拉致巡る声や米韓反応考慮

 岸田文雄首相は、北朝鮮の金正恩[キムジョンウン]朝鮮労働党総書記の妹、金与正[キムヨジョン]党副部長の談話に対し、難しい判断を迫られる。日本人拉致問題解決に向けた金正恩氏との首脳会談を自ら求めてきたが、肝心の拉致問題を「両国の障害にしない」形での訪朝に言及されたためだ。北朝鮮の意図に加え、米国、韓国の反応や国内世論を見極めながら対応を検討する。

北朝鮮を巡る岸田首相の主な発言
北朝鮮を巡る岸田首相の主な発言
金与正氏(朝鮮通信=共同)
金与正氏(朝鮮通信=共同)
北朝鮮を巡る岸田首相の主な発言
金与正氏(朝鮮通信=共同)


 揺さぶり
 「金与正氏が談話を発出したことには留意している。さまざまなルートで働きかけを絶えず行っているが、詳細を明らかにするのは差し控える」。拉致問題担当相を兼ねる林芳正官房長官は16日の記者会見で、慎重に言葉を選んだ。
 首相にとって最も悩ましいのは「拉致問題を両国の障害にしないのであれば、岸田首相が平壌を訪れる日が来ることもあり得る」との一文だ。
 昨年5月以来、首相は日朝首脳会談早期実現のため、「私直轄のハイレベル協議を行いたい」と呼びかけてきたが、日本政府内では「拉致問題で具体的な成果を得られることが大前提」との共通認識がある。
 談話は拉致問題を「解決済み」とも強調しており、外務省幹部は「日本が拉致問題を重視する立場を変えられないことを見透かしてボールを投げてきている。連携を強める日米韓を揺さぶろうとしているのは明らかだ」と指摘する。官邸筋は「拉致問題のことばかり言うな、という北朝鮮側の意思表示なのだろう」と受け止めた。

 問われる本気度
 一方で、北朝鮮指導部中枢からの談話によって、水面下を含む日朝間のやりとりが進むとの観測もある。
 談話の冒頭には、今月9日の衆院予算委員会で首相が発した「大胆に現状を変える」との言葉がそのまま引用され、「肯定的に評価されない理由はない」と記した。首相は5日の衆院予算委でも「拉致被害者の帰国に向け、全身全霊を傾けて取り組む強い覚悟を決めている」と踏み込んでいた。
 最近の首相発言に対する「返答」の側面がある以上、日本側が一切動かなければ、首脳会談実現への本気度が問われかねない。1月には最高指導者の金正恩氏から能登半島地震の見舞い電報が送られ、林氏が謝意を示した。
 日本側では「日米韓にくさびを打ち込む意図があると分かっていても、向き合わざるを得ないのではないか」との声が出ている。

 成果なければ
 首相が今後の方針を決める上で鍵になるのは米韓両国の意向だ。
 米国が16日、日朝対話や拉致問題解決に向けた日本政府の努力を支持する立場を表明したのに対し、北朝鮮と関係が悪化している韓国では「日朝の思惑は違う。乗らない方がいい」(韓国外交筋)と警戒する向きもある。
 拉致問題をはじめとする対北朝鮮外交の成否は首相の政権運営に大きく影響する。政権幹部は「仮に訪朝しても成果が出なかった場合は批判される。何も得るものがなければ行くことはない」と語った。

北朝鮮 拉致で「宣伝戦」 岸田首相に政策転換迫る  北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の妹、金与正党副部長が談話で岸田文雄首相の訪朝の可能性に触れたことを受け、米韓は16日までに日本との緊密な連携を表明した。談話は日本人拉致問題で政策転換が必要なのは岸田政権だと一方的に主張しており、北朝鮮が仕掛ける「宣伝戦」の色合いが強い。
 北朝鮮は拉致問題が解決済みだとの立場を一貫し、日朝対話をちらつかせながら岸田首相に譲歩を迫る構えだ。北朝鮮の核・ミサイル開発への対抗で日本と協調する米韓は、北朝鮮が日本の取り込みを図る動きとみて警戒している。
 談話は15日夜、国外向けの朝鮮中央通信を通じて発表された。日本が北朝鮮の主張に従うのであれば「岸田首相が平壌を訪れる日が来ることもあり得る」と言及。党の宣伝部門に精通し、韓国への威嚇を繰り返してきた金与正氏が、対日関係で談話を出すのは初めて。
 一方、北朝鮮で最も権威が高いとされる労働新聞には16日、談話が掲載されなかった。党の公式見解とは切り離し、当面は岸田政権の出方を探るもようだ。ただ金与正氏は最高指導者の兄を補佐する役割も一部で担っており、談話は金正恩氏の意向を反映している可能性もある。
 米国務省で北朝鮮を担当するジュン・パク副次官補は15日「何か起きるかもしれないと言うには早過ぎる」と慎重な姿勢を示しつつも、日朝対話が実現すれば支持すると表明した。韓国統一省関係者は16日「韓米日で緊密な意思疎通を続けている」と述べ、3カ国の連携が堅持されていることを強調した。
 (共同)

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