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静岡県のリニア対応「大きな転換点」 事業前進に期待と不安 JRはコメントせず【川勝知事辞職表明】

 2日に辞職の意向を表明した川勝平太知事は、静岡県内でのリニア中央新幹線トンネル工事を巡り、JR東海に大井川水資源や南アルプス自然環境の保全に入念な対策を求め、応じるまでは県内での工事を認めない姿勢を貫いてきた。任期途中の辞意を示したことで、関係者の間ではリニア事業前進への期待と、今後の見通しへの不安が交錯。多くの人が「県のリニア対応の大きな転換点になる」との見方を示した。

リニア中央新幹線建設についての初会談で、静岡県庁に到着した当時のJR東海・金子慎社長(右)を出迎える川勝平太知事=2020年6月26日
リニア中央新幹線建設についての初会談で、静岡県庁に到着した当時のJR東海・金子慎社長(右)を出迎える川勝平太知事=2020年6月26日

 リニア問題に関する県有識者会議専門部会委員の1人は、知事の突然の辞意表明に「次の専門部会に向けてJRと協議している最中。投げ出しと受け取られてもしょうがない」と戸惑いを口にした。「これまでの議論の継続性がある」と、県がすぐに主張を転換することに否定的な見方を示しつつ「議論の方向性が変わることは間違いない」と見解を述べた。
 県は4月から、川勝知事の強い意向で南アルプス環境保全の担当部長を新たに設け、リニア問題への対応を強化したばかりだった。県のある幹部は「リニア対応の組織的規模は縮小せざるを得ない」との見方を示した。
 大井川の表流水や地下水を利用して生活している流域10市町と利水団体は18年8月、JRに着実な保全策の実施を求め、大井川利水関係協議会を組織した。県は同協議会を代表して同社と交渉する立場だが、21年12月に国が大井川水資源の保全に関する報告書を取りまとめて以降は、川勝知事と流域市町の首長の間で認識の違いが表面化していった。
 JRは3月29日、県内での工事の見込みが立たないことを理由に品川―名古屋間の27年開業の断念を表明。静岡工区の工期を10年程度と想定し、開業は早くても34年以降になると明らかにした。川勝知事は静岡工区の工事期間が明確になったことを評価し、持論の「部分開業」をリニア建設促進期成同盟会で主張することに意欲を示すコメントを発表していた。
 川勝知事の姿勢を応援してきた関係者は「JRの表明を一区切りと捉えたのか。真意が分からない」と戸惑い、今後の環境保全を巡る議論の行方を注視するとした。
 (政治部・尾原崇也)

 「障壁なくなる」県外 歓迎の声
 川勝知事が辞意を表明したことで、県外のリニア関係者は「最大の障壁がなくなる」と語り、計画の前進に向けて期待感を示した。国土交通省の幹部も「朗報だ」と喜んだが、次の知事選を警戒する声もあった。
 「長野県駅(仮称)」が設置予定の長野県飯田市では、飯田商工会議所の原勉会頭(74)が「一つの石が取り除かれた」と表現。リニア開通の不透明感が払拭され、出遅れていた地元への投資が活発になることを期待し「地域の発展に向け対応したい」と意気込んだ。
 沿線自治体で早期開業を求めている神奈川県の幹部は「報道によると、次に何か失言したら辞めるとのことだった。有言実行だ」とした上で「早期開業へのハードルが低くなった」と今後の進展に期待した。
 JR東海は先月29日、国交省であった有識者会議で、品川-名古屋間の27年開業の断念を表明。工期は10年程度と見込み、開業は早くても34年以降になる見通しとなっている。
 焦点は次の知事選だ。着工に賛同する候補の当選が早期開業の条件となる。山梨県駅(仮称)を設置予定の甲府市選出の自民党県議は「新しい知事が着工を進めるよう期待する」と語った。政府関係者は「川勝氏は既に後継候補を準備しているのではないか。知事選で負けたら元も子もない」と話した。

 JRコメントせず
 JR東海は2日、取材に対し、川勝知事の辞意表明に関して「報道は承知しているがコメントを出す立場にない」と説明した。

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