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首相 好循環実現に注力 苦境打開へ賃上げ期待

 岸田文雄首相は、日銀が19日に決めたマイナス金利政策の解除を踏まえ、賃金と物価がそろって上がる経済の好循環実現に注力する意向だ。自民党派閥の裏金事件で内閣支持率が低迷する中、政権の苦境を打開するため政策を総動員し、中小企業を含めた継続的な賃上げの達成に期待を寄せる。

記者団の質問に答える岸田文雄首相=19日午後、首相官邸
記者団の質問に答える岸田文雄首相=19日午後、首相官邸

 日銀は、今春闘の平均賃上げ率が歴史的な高水準となり、2%の物価安定目標の達成が見通せる環境が整ったと判断した。デフレ脱却の旗を振ってきた首相の経済政策に日銀が「お墨付き」(政府関係者)を与えた形だ。
 次の焦点は物価高に負けない賃上げの実現になる。物価変動を加味した実質賃金は1月まで22カ月連続で前年同月を下回る状況が続き、国民の生活実感向上にはつながっていない。
 政府は賃上げを中小企業に波及させるため、コスト上昇分を取引価格に上乗せする価格転嫁の徹底を図る。6月の所得税・住民税減税もてこに、可処分所得が増える状況を確実にしたい考えだ。
 首相は従来、故安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」の柱である大規模緩和の長期化に懐疑的だったとされる。日銀の植田和男総裁の起用も、緩和策からの転換に向けた布石と言える。官邸筋は「長年の課題だったデフレ脱却実現に、ようやくチャンスが巡ってきた」と強調した。

デフレ脱却は総合的に判断  岸田文雄首相は19日、日銀がマイナス金利政策の解除を決めたことを受けて官邸で記者団の取材に応じ「緩和的な金融環境が維持されることは適切だ。引き続き緊密に連携していく」と述べた。「デフレ脱却」を宣言するかどうかは「物価の基調や背景を総合的に判断する」と語った。安定的な経済成長を実現するための政府と日銀の役割を定めた共同声明を「現時点で見直すことは考えていない」とも話した。
 林芳正官房長官は記者会見でデフレ脱却に至っていないとの政府見解を維持した。日銀の植田和男総裁は会見で賃金と物価の好循環の実現に自信を示したが、林氏は「再びデフレに戻る見込みがないと言える状況に至っていない」と述べた。

自民「経済好転の好機」/野党「失敗認めるべき」  自民党の松山政司参院幹事長は19日の記者会見で、日銀が大規模金融緩和の柱であるマイナス金利政策の解除を決めたことを評価した。賃金と物価がそろって上がる経済の好循環実現に向け「チャンスを迎えた」と歓迎した。野党からは「マイナス金利は全く効果がなかった。失敗を認めるべきだ」(共産党の田村智子委員長)と批判する声が上がった。
 松山氏は「政府与党が一体となって、物価高に負けない賃上げ、企業の稼ぐ力の強化実現に取り組む」と強調。2024年度予算案の早期成立に重ねて意欲を示した。
 一方、田村氏は会見で異次元緩和を根幹とした「アベノミクス」について、物価高騰などの弊害を招いたとして「破綻していると言わざるを得ない」と非難した。
 公明党の山口那津男代表は、岸田政権が進めるデフレからの完全脱却に向け「中小企業や非正規で働く方々へ賃金上昇の広がりを進める」と述べた。
 立憲民主党の岡田克也幹事長は解除決定に関し「遅すぎたが、方向転換したことは評価できる」と語った。

 識者談話  短期的には円安基調維持か/SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミスト
 春闘では大企業を中心に高水準の賃上げ回答が相次ぎ、中小企業にも一定程度、賃上げの動きが波及している。今回の日銀の金融政策修正は、安定的な物価上昇と賃金アップの実現が可能な環境が整ったとの総合的な判断だ。ただ日銀はマイナス金利解除後も当面緩和的な金融環境が継続するとの見通しを改めて示したため、市場は金融引き締めには慎重な「ハト派」姿勢と受け止めた。政策修正を受けて中長期的には外国為替市場で円高が進むとの見通しに変わりはないものの、短期的には円安基調が維持される可能性もある。今後は追加利上げに踏み切るタイミングが焦点となる。日本経済への影響が懸念される中国経済や米大統領選の動向への注視が必要だ。

 年内再利上げの可能性低い/三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジスト
 日銀の植田和男総裁は就任後、大規模な金融緩和策の修正に早く向かうとの見方も多かったが、拙速な判断を避けて慎重に進めてきた。春闘の賃上げ回答結果が想定をかなり上回り、政策変更への最後の一押しになった。ただ次の利上げは慎重に判断する必要がある。家計が消費を増やし、企業の売り上げ増につながって、賃金が上がるサイクルが本当に定着したかどうかの判断はまだ早い。年内の再利上げの可能性は低いとみている。大規模緩和策は、当初は為替相場が円安に動いたり、株価が反発したりする効果があった。マイナス金利導入後は、金融機関の体力を奪うなどの副作用が目立つようになったが、日本経済の基礎体力が上がらなかったので、解除まで8年もかかった。

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