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テーマ : 沼津市

時代超え信望集める富士山 家康、霊峰と貴重な共演/甲斐の信玄、娘の平安願う/静岡・山梨両知事インタビュー【2月23日 富士山の日】

 信仰の対象と芸術の源泉としての普遍的な価値が認められ、富士山が2013年6月に世界文化遺産に登録されてから今年で10年を迎える。

世界文化遺産登録10年を迎える富士山=11日、富士宮市(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から、写真部・杉山英一)
世界文化遺産登録10年を迎える富士山=11日、富士宮市(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から、写真部・杉山英一)

 静岡、山梨両県を中心とした関係者はこの間、富士山の価値を後世に引き継ぐために登山者数の管理や災害の対応などさまざまな取り組みを進めてきた。
 年明けに始まった大河ドラマで再注目される徳川家康も、富士山に高い信仰心を寄せた。県内各地に残るその事績は、時代を超えてあつい信望を集める富士山の存在をあらためて認識させる。
 両県が定める富士山憲章や富士山基本条例は、私たち一人一人にも主体的な関わりを求める。きょうも雄大な姿を見せる富士山と、これからも共に歩んでいくために。

家康 霊峰と貴重な共演 photo03 ㊤富士三保清見寺図屏風。右隻に富士山、左隻に清見寺を描く(静岡県富士山世界遺産センター所蔵)㊦清見寺を訪れる隠居風の人物。松島仁教授は徳川家康だと指摘する

県世界遺産センター所蔵 屏風が織りなす 忠臣との出会い
 徳川家康は駿府や江戸など富士山を望むことができる地に長く住んだ。時の権力者の中でも富士山への信仰心がひときわ高かったとされる。富士宮市の県富士山世界遺産センターは、家康と富士山が同一画面に描かれた屏風(びょうぶ)絵「富士三保清見寺図屏風」を所蔵する。松島仁センター教授(54)=美術史=に作品の見どころや類推される背景を聞いた。
 屏風の右隻に富士山と三保松原(静岡市清水区)、左隻に名刹(めいさつ)清見寺(同)を描く。17世紀後半頃の制作とみられ、この構図自体は室町時代からある富士山絵画の定型に準ずる。
  photo03 「大御所」時代の徳川家康の銅像=21日、静岡市葵区の駿府城公園

 松島教授は、清見寺を訪れる隠居風の人物こそ晩年の家康だと指摘する。三保松原の奥に久能山東照宮とみられる建築群が描かれ、清見寺には家康がめでた梅「臥龍梅」が強調した形で配置される。人物が家康だと暗示しているという。
 当時清見寺にいて、後に徳川家の忠実な家臣になる土屋忠直と家康との出会いを描いた制作意図が浮かび上がる。教授は「自家の正当性を再確認するために土屋家周辺で描かれた可能性が高い」と推測する。
 家康と富士山が一緒に描かれた絵図はこの屏風絵以外では確認されていない。家康は当時東照大権現という神のような存在で、景観の中に人として描くことははばかられたという。
 忠直は家康のライバルである武田家の家臣だった昌恒の嫡男。松島教授は「富士山と家康の貴重な共演を演出したのが同じ富士山を仰ぎ見た甲斐の人間というのが面白い」と語る。屏風は4月29日~6月4日に特別展示する。
 (政治部・尾原崇也)

富士宮・富士山本宮浅間大社 戦勝祈願の礼に社殿再興 photo03 社殿を紹介する権禰宜の堀江昂佑さん=18日、富士宮市の富士山本宮浅間大社

 世界遺産富士山構成資産の富士山本宮浅間大社(富士宮市)は徳川家康ら名だたる武将たちが崇敬した歴史を持つ。社殿は家康が寄進したものとされる。
 戦国時代、戦乱の中で焼失した同大社の社殿は家康が1600年の関ケ原の戦い後、戦勝祈願の礼として再興した。社殿は1607年に落成し、正遷宮が行われたという。国指定重要文化財の本殿は高さ約13メートルで「浅間造り」と称される二重の楼閣造り。同大社権禰宜(ごんねぎ)の堀江昂佑さんは「当時では画期的な造り。ここまで高い建物は周囲になく、目立つ存在だったはず」と見上げる。
 堀江さんは同大社を訪れる地元の子どもたちに向けて家康ら武将たちが崇敬した歴史を伝えている。「家康は富士山を強く意識していたからこそ、富士山を祭る浅間大社を大切にしてくれたのではないか。富士山が世界遺産に認められた価値や意味を浅間大社でも感じてもらえたら」と願いを込めた。
 (富士宮支局・吉田史弥)

御殿場 晩年の遺産「御殿」地名に
 

photo01 武田信玄の肖像(山梨県立博物館提供)

 御殿場の地名の由来は徳川家康が造営を命じた御殿とされる。「家康は美しい富士山を好み、この地を選んだはず」。地元住民は太平の世を築いた偉人との縁を誇りに思う。
 家康は晩年、駿府と江戸を往来する際に宿泊や休憩する御殿の造営を命じたとされる。完成したのは家康の死後で、小田原藩主が使ったとの記録が残る。周辺には「御殿新町」が整備され、御殿が取り壊された後も政治経済の中心地となった。
 御殿の跡地に鎮座する吾妻神社は御殿場東照宮とも呼ばれ、境内に「御殿場発祥の地」の石碑が建つ。地域の歴史に詳しい藤方慶子さん(70)=同市西田中=は「御殿場という地名は格調高い。家康とのつながりを大切にし、子孫に伝えたい」と話す。
 (御殿場支局・矢嶋宏行)

甲斐の信玄 娘の平安願う
photo01 武田信玄の肖像(山梨県立博物館提供)

 「戦国最強」とも称された騎馬隊を率い、天下統一の夢を追いかけた甲斐の国(山梨)の武将・武田信玄は、富士山を特別な存在として信仰し、その足跡は富士北麓地域にある世界文化遺産・富士山の構成資産に残る。
 信玄は1561(永禄4)年、富士吉田市の北口本宮冨士浅間神社の東宮本殿を再建したとされる。上杉謙信との「川中島の合戦」の勝利を祈願したと伝えられている。

photo03 1566(永禄9)年、武田信玄が娘の安産を祈ってしたためたとされる願文(冨士御室浅間神社所蔵・富士河口湖町提供)  

 富士河口湖町の冨士御室浅間神社には、北条氏政に嫁いだ長女の黄梅院殿の安産を祈願する61(弘治3)年と66(永禄9)年の願文が残存。富士吉田市のふじさんミュージアムには65(永禄8)年、娘の松姫の病気の治癒を祈った願文が所蔵されている。市内の御師の家で代々受け継がれたもので、和紙に墨で書かれ、筆跡の特徴から直筆とみられる。願いがかなった際の誓約として、「娘が改めて参詣する」「5合目で法要を行う」など3カ条を記した。
 ふじさんミュージアム(富士吉田市)の篠原武学芸員は「丁寧に墨を置き、娘への思いを込めているのが見て取れ、繊細で娘思いの父親としての信玄を感じる。富士山は別格の存在として信仰していたのではないか」と推察した。
 (山梨日日新聞)


両県知事インタビュー 「ふじのくに」は日本の顔 静岡 川勝平太氏

 静岡、山梨両県が条例で定める「富士山の日」に合わせ、川勝平太知事が静岡新聞社のインタビューに応じた。富士山の世界遺産登録10年の歩みや両県の交流促進の取り組みを語った。
 ―登録から10年。地元への影響は。
 「富士宮市の富士山本宮浅間大社近くに富士山世界遺産センターを整備し、まちが変貌している。この10年で山梨、静岡両県の『ふじのくに』の一体化が進み、自然、文化の首都として日本の顔になったと考えている」
 ―両県の今後の連携の方向性は。
 「中部横断道全線開通で人の往来、物流が盛んになった。内陸部の農産物や精密機器などを清水港から輸出できる経済効果は大きい。両県で協力し、富士山を仰ぎ見る地域への移住も進めたい」
 ―コロナは5月に感染症法上の位置付けが引き下げられる。登山への影響は。
 「今年もコロナ対策を怠ることはできない。マスク文化が定着し、山小屋での人との距離感も変わった。もう雑魚寝はできないのではないか」
 ―徳川家康とのつながりで注目する点は。
 「家康公は晩年、泉頭城(清水町)に隠居する計画があった。富士山のきれいな湧水が豊富にあり、希少な地域だと分かっていたのだろう。家康公が本殿や拝殿を造営した富士山本宮浅間大社でお参りし、世界遺産センターで富士三保清見寺図屏風を見てほしい」
 (聞き手=政治部・尾原崇也)
郷土の誇り愛着深まる 山梨 長崎幸太郎氏
 新型コロナウイルス禍後の富士山登山のあり方や、静岡県との連携などについて、長崎幸太郎知事が書面インタビューに答えた。
 -世界遺産登録から10年がたつ。
 「郷土への誇りや愛着が深まり、保全意識が高まった。(麓と5合目を結ぶ)富士山登山鉄道構想を含め、『わが国を象徴する唯一無二の上質な空間』としてのあり方を幅広く議論したい」
 -静岡、山梨両県の交流を振り返って。
 「『バイ・ふじのくに』の相互交流、中部横断自動車道の全線開通で、両県の時間的・心理的距離も短縮された。今後もサプライチェーンの拡大・強靱(きょうじん)化や観光推進・文化財交流などで連携を深める」
 -大河ドラマ「どうする家康」の放映を踏まえどうPRするか。
 「北口本宮冨士浅間神社の東宮は武田信玄が造営し、冨士御室浅間神社本殿は徳川家康の重臣が建立したと伝えられている。富士山の普遍的価値を再認識する契機としたい」
 (山梨日日新聞)


静岡県、通年でイベント 登録10年で記念式典も

 静岡県は2023年、年間を通じて富士山に関するイベントを開催し、富士山を後世に継承するための機運を高める。
 2月23日に沼津市で「富士山の日フェスタ」を開くほか、世界文化遺産登録10年の節目となる6月22日には東京都内で記念式典を実施する。記念式典は静岡、山梨両県などで構成する富士山世界文化遺産協議会の主催。
 富士宮市の県富士山世界遺産センターは7月に国際シンポジウムを企画する。
 11月には富士山、白山、立山の「日本三霊山」を抱く静岡、富山、石川の3県による連携協定を記念した学術フォーラムを行う。

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