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テーマ : 掛川市

【第2章】高校時代② 留年選択「卒業目指す」 家族の総意【青春を生きて 歩生が夢見た卒業】

 高校には、公私立を問わず、進級の可否を判断する際「履修」という一つの基準がある。各教科、決められた日数、授業に出席しなければならない。県立高はどの教科も3分の1程度欠席すると、履修不足となり進級できなくなる。病気でも考慮されない。2019年度、県立磐田北高1年だった寺田歩生[あゆみ]さんは2学期終了時点で54日休み、既に3分の1に近かった。

愛犬「豆吉」とくつろぐ寺田歩生さん。留年し2回目の1年生がスタートした=2020年4月、磐田市内(歩生さんの両親提供)
愛犬「豆吉」とくつろぐ寺田歩生さん。留年し2回目の1年生がスタートした=2020年4月、磐田市内(歩生さんの両親提供)

 放射線治療や右足を切断した手術の影響が大きかった。寺田家でも懸案だったが、治療をやめるわけにはいかず、年明けに規定の日数を超えた。留年か、退学して治療に専念か、通信制高校への転学か。学ぶ意欲がある歩生さんや家族にとっては、いずれも受け入れがたい選択だった。
 それを理解していた当時の鈴木真人校長(62)=掛川市=は、担任や学年主任を通じて特例案を示した。進級は認められないが、歩生さんの残り時間を考え、新2年生と同じ教室で授業を受けられるようにする―と。学校や友達とつながっていることが、歩生さんの生きる力になっていると感じていた。
 寺田家では、議論になった。歩生さんは当初、通信制高校を希望した。父武彦さん(56)や歩生さんの姉2人は本人の意思を尊重した一方、母有希子さん(54)は磐田北高に残る案を推した。通信制に行けば、学校に通う頻度が減り、友達づくりも一から始めなければならないことを懸念した。「家族や治療以外のところで、自分の居場所を持っていてほしかった」
 歩生さんは片足の状態で学校に通うことよりも、留年の方が抵抗感があったようだ。「あぁ、もう一回1年生か」とため息をついた。卒業への執念は、この時点ではまだ見せていなかった。
 歩生さんの治る見込みは厳しかったが、家族全員望みは捨てていなかった。貴重な時間を無駄にはできなかった。やるなら卒業を目指そう―。歩生さんの気持ちは次第に固まり、家族の思いは一致した。「思春期だし、人目も気になったと思うが、あの子はやると決めたらやるという感じで。最後は提案した私より潔かった」(有希子さん)
 東京に長期滞在しての放射線治療、右足の切断、そして留年…。歩生さんの環境は、1年でめまぐるしく変化した。学校は、留年を決めた歩生さんを支えるべく、ある取り組みの導入を決めた。歩生さんが病院や自宅からリモートで受けられる遠隔授業の導入だ。当時、県内の公立高では前例がなかった。

  メモ 寺田歩生さんが高校1年だった2020年2月、寺田家では柴犬1頭を家に迎えた。全国で闘病する子どもの夢を実現させる活動を進める公益財団法人「メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパン」(東京)が、歩生さんの願いをかなえた。「豆吉」と名付けられた子犬は歩生さんの癒やしとなった。4年がたった今、10キロを超えるまでに成長し、すっかり家族の「中心」になっている。
<続きを読む>第2章・高校時代③ 前例なき授業 母の熱意 「遠隔」道開く【青春を生きて 歩生が夢見た卒業】

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