「聖母子(エッサイの樹)」 A.J.Dix工房(イギリス)、20世紀初頭 青に映える 純潔の白ユリ 掛川市ステンドグラス美術館【コレクションか㉕】
正面を見つめる美しい瞳、陶器のような白い肌、柔らかなウエーブヘア、そして手には白ユリの花。重厚な装飾空間にたたずむ女性、この人物こそ聖書物語をつかさどる聖母マリアである。聖母マリアはイエス・キリストの母であり、イエスが十字架にかけられるまで見守り続ける聖なる母として知られている。優しき母の左腕に抱かれているのは、後に救世主となるイエス・キリスト。子どもとは思えない聡明[そうめい]な顔立ちをしている。
教会建築におけるステンドグラスには、マリアとイエスの物語は欠かせない。なぜなら聖書物語を人々に教え授けるために、ステンドグラスは存在しているからである。
この作品は20世紀初頭に英国の著名な工房で制作された逸品、「エッサイの樹」とよばれるキリストの家系図を示すその中心となる1枚である。
マリアの衣装に用いられているのは、ベールダルトというターコイズブルーのガラス。青色はマリアを象徴する色でもある。マリアの美しさを誇示するかのようなこの空間にひときわ映える白いユリ。まさに純潔の象徴、マリアを意味する花である。
人々の長い歴史に支えられ、100年以上経た今でも、マリアのほほ笑みとともにこの光の中に息づいている。
(池田恵美子・主任学芸員)
メモ 掛川市掛川1140の1 <電0537(29)5680>
「聖母子(エッサイの樹)」は館内の窓枠に設置され、常時観覧できる。