テーマ : 福祉(障がい者・子ども)

PTAどう変える?⑤ しずしんニュースキュレーター/読者の意見【賛否万論】

 「みんながネガティブに向き合っている活動を一度リセットしたい」「断捨離やスリム化を進めよう」。半強制的な活動となっているPTAに対し、保護者からはこんな声が届いています。「嫌々活動している親の姿を、子どもに見せるのはよくない」という意見も少なくありません。煙たがられるPTAから、多くの保護者が積極的に関わろうとするPTAへ。変わっていくことはできるでしょうか。

戦後発足、目的は果たされた/おやじの会は積極的/保護者同士つながる場に

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キュレーター 江口裕司さん(三島市)
製造会社で米国勤務後、設計、製造、調達、翻訳、社内教育など多様な業務に携わり定年退職。現在、求職活動中。63歳


 日本のPTAは戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の指導で発足したと聞きます。教育の民主化という目的はとっくに果たされたのだからPTAはいったん解体、見直されてよかったはずです。しかし、その機会なく、子どもの健全育成の理念と同化し、そのまま組織化されてきたのではないでしょうか。PTAは今の社会や教育事情に照らし合理的なのか。まずはそういった問題意識を共有したいものです。

 PTAの活動目的は「子どもたちの幸福のために家庭と学校、社会が協働し健全育成を図ること」と集約されます。「子どものために」との大義に翻弄(ほんろう)される保護者を見て、子どもたちは幸福感を得られるでしょうか。

 たとえば、ベルマーク集計や古紙回収、地方議員の経歴に記される「元PTA会長」、おめでたい進学なのに義務や強制、不公平感を伴う委員選び…。PTA自体が自己目的化しているように思えます。保護者の声を行政に伝える意義や、保護者同士がつながり地域課題を学べるメリットには一定の理解はできますが、より効果的な方法はPTA以外にもありそうです。

 「PTA、やらなきゃダメですか?」(山本浩資著、小学館新書)では多忙な新聞記者である著者がPTA会長に担ぎ出され、改革を成し遂げるまでの汗と涙が活写されます。PTAを「できるときに、できる人が、できることをやる任意参加のボランティア団体」と再定義し、ドラッカーのマネジメント手法を採り入れながら、解決策の提案、合意形成、実行、効果の検証、改善、とまさにPTA界でPDCAサイクルを回すのです。PTA組織にも、企業における「サイロ・エフェクト」のような硬直化した状況が生じているのでしょう。
 PTAとして、やること、やらないこと、行政やアウトソーシングに任せることを合理的に腑(ふ)分けする必要性を感じます。国として一度、総括が必要ではないでしょうか。

読者 三島南小学校おやじの会OB・長沢禎文さん
 私は小中学校でPTA会長を務めさせていただきました。役員選出の場面では毎年険悪なムードが漂い、押し付け合いで泣き出すお母さんもおられました。
 PTA役員になったきっかけは、娘の小学校入学でした。ちょうどその年に「おやじの会」が発足し、それに参加して活動を楽しんでいた延長線上で先輩役員の方から誘われました。
 PTAの役員選考では独特の「どうやって逃げようか」的なムード。一方、おやじの会の役員選出は大笑いしながら和気あいあいの雰囲気。なぜこうも違うのでしょう?
 日頃の活動においても、PTAでは「やらされてる感」が強く、「余計なことはしないでおこう」という姿勢。対して、おやじの会では積極的に新企画を提案し「自分たちがいかに楽しむか」という姿勢。ある時ふと思いました。「これこそPTAのあるべき姿だ」と。
 そんなおやじの会も来年20周年を迎えます。不審者情報が出た時の防犯パトロールや運動会の後片付けなどの貢献も数多く積み重ね、今では地域の中で重要な組織となっています。

 読者 宇佐美祐三さん(長泉町)
 昨年度開校したばかりの伊豆の国特別支援学校で、縁あってPTA会長を務めています。私が意識したことは三つです。まずは「子どもたちの笑顔のため」「学校の未来のため」という本来の目的を発信すること。二つ目は「○○でなければいけない」「○○してはいけない」というルールをなるべく減らすこと。そして、三つ目は活動にクオリティーや結果を求めないことです。
 私が望むのは、PTAが保護者同士のつながりを育む場であってほしいということです。特に障がいのある子どもたちは将来も社会の支援を必要とすることが多い。保護者同士のつながりを大切にすることは子どもたちのためでもあるので、それを推奨する「おしゃべり座談会」も実施しています。個人情報への過剰反応に加えてコロナ禍が追い打ちとなり、「同じクラスの保護者の顔も名前も分からない」とは低学年の保護者のリアルな声。人のつながりを育むコミュニティーとしてのPTAに期待しています。

任意加入進め最適な形を/下部組織の情報共有が大切
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キュレーター  中村真二さん(浜松市西区)
「てんかん」という脳の病気を持つユーチューバー「リンカーン中村」として、てんかん患者が住みやすい世の中をつくるために、SNS発信、講演、執筆、メディア出演など活動中

 僕は学校などで、てんかんに関する講演などをさせていただくことがあるのですが、その際にPTAの方と接する機会があります。そこで感じるのは「お子さんのことを考えている情熱的ですてきな方たちだなぁ」ということです。子どものために講演会を企画したり、当日までの準備や運営をしたり。なかなかボランティアでできることではないと思います。そのような方たちがいるおかげで、僕のように、話をする機会が得られ、思いを届けられる人もいます。本当にありがたいことです。

 しかしその一方で、「これを強制的にやらされるとつらいだろうな」とも感じます。自分でやっているのと、誰かにやらされているのとでは、感じ方に大きな差があります。それはPTAの活動も同じはず。柔軟性が問われる現代社会において、1940年代から取り入れられているPTAの風習をそのまま継続するのはきっと困難です。アプリなどのデジタルツールの導入や、代行サービスの利用、本当の意味での任意加入を進め、その地域の子どもと保護者にとって最適な形を作り上げていければ良いと思います。

  読者 京都PTAフォーラム実行委員会・大森勢津さん
 昨年度、京都市PTA連絡協議会で会長をしておりました。単位PTAの見直しの参考事例は全国的にも積み上がってきており、また改革(適正化)のムーブメントも起こってきていると思います。マスコミでPTAを取り上げていただけることを大変ありがたいと感じています。
 一方、その上部組織に当たる協議会組織に関しては、情報を共有する機会もほとんどありませんし、組織も大きいので変革が難しいところがあります。
 単位PTAがそれぞれに適正化を進めていくには、大きなエネルギーが必要です。協議会が単位PTAに負担を強いる存在ではなく、その支援に当たれば、単位PTAももっとスムーズに適正化が進められるのではないか。そのように感じ、協議会同士の情報共有が大切と考えています。
 そこで、12月10日に先進的な取り組みをしている協議会の事例発表をオンライン形式で行う「京都PTAフォーラム 『上部組織』のあり方を考える」を開催します。どなたでも参加可能で、静岡市PTA協議会の大石修会長からも発表をいただく予定です。
 申し込みは専用ホームページから。ぜひともご関心を持っていただければ幸いです。
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キュレーター
「しずしんニュースキュレーター」は、新聞記事や時事問題の“ご意見番”として、静岡新聞の記者が推薦した地域のインフルエンサーです。毎回それぞれの立場や背景を生かしたユニークな視点から多様な意見を寄せてもらいます。


 ■次回も引き続き キュレーターと読者の意見特集
 PTAに関して、参考となる事例や考えを聞かせてください。お住まいの市町名、氏名(ペンネーム可)、年齢(年代)、連絡先を明記し、〒422-8670(住所不要)静岡新聞社編集局「賛否万論」係<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください(最大400字程度)。紙幅の都合上、編集させてもらう場合があります。

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