テーマ : 福祉(障がい者・子ども)

歯止め規定、LGBTQ+…多様化する「性」に向き合う 全国研究大会で議論

 学校現場で性交をどう教えるか。LGBTQ+など性的少数者への支援は-。子どもたちを取り巻く性の課題が多様化するなか、全国の性教育関係者が集う「第51回全国性教育研究大会」では、あるべき性教育の姿を巡り、白熱した講演や議論を繰り広げた。

参加者の議論を促す野津有司名誉教授=熊本市
参加者の議論を促す野津有司名誉教授=熊本市

 1972年に始まった同大会は今回、熊本市で開催。学校関係者のほか、思春期教育に携わる助産師や医師、LGBTQ+当事者ら約460人が参加した。
 焦点の一つとなったのが、性交を取り扱わないなどとした小中学校の学習指導要領の「歯止め規定」だ。文部科学省の横嶋剛健康教育調査官は講演で「全ての子どもに共通して指導すべき事項ではないという趣旨」と説明。子どもの発達段階や校内、保護者の理解を得ることなどに配慮した上で「学校の判断で教えることはできる」と明言し、禁止事項のように読める記述の仕方を巡っては「改める必要があるという考え方もあるようです」と含みを持たせた。
 「女子生徒から『交際する男子にセックスを迫られた。彼を失いたくないけどセックスに不安がある』と相談された。先生ならどうする?」
 こんな問いを客席にぶつけたのは筑波大の野津有司名誉教授。じゃんけんで先生役と生徒役に分かれた参加者は「真の同意があるかどうかじゃない?」などと真剣な表情。野津名誉教授は「『善悪』で話すと聞く耳を持たれなくなる」「正解を授けるより『この先生に話してよかった』と感じてもらえることが大事」などとアドバイスした。
 起こりそうな事例を検討する「ケーススタディー」の手法は、抵抗感を抱かれがちな性について、活発な対話を促す効果があるようだ。「保護者との連携」がテーマの分科会でも、東海大の小貫大輔教授が「家庭で『精子と卵子はどうやって出会うの』と聞かれたらどうする?」などの繊細な問いを投げかけ、グループで議論が行われた。
 「絵本で教える」「動物の交尾になぞらえる」「おちんちんが合体すると伝える」「性器の名前もセックスもはっきり教える」-。地域や家庭ごとに異なる性教育の多彩さに驚きの声も。小貫教授は「社会変化に伴い家庭も変わってきている。保護者同士、学校と家庭とで情報交換することで、より良い性教育ができるはず」と呼びかけた。
 大会では性的少数者の支援もテーマに。性同一性障害の診療と研究に取り組む岡山大の中塚幹也教授は講演で、体と心の性が一致しないトランスジェンダーが幼少期から違和感を言葉で伝えられず、うつや自殺願望を抱える場合が多いことをデータで解説。早期の医療的ケアや、担当医と学校が協力して支援することの重要性を指摘した。

性教育、教材を配布 東京の企業
 性教育に従事する教員や保健師らが現場で使える教材を提供しようと、10代の性にまつわる相談を受けるサイト「セイシル」を運営するTENGAヘルスケア(東京)が6月、ウェブプラットホーム「withセイシル」を開設した。
 性暴力の定義や性的同意の基準を教えるフランス由来の「デートDVチェッカー」をはじめ、性教育の授業で使用できる教材が一部無料でダウンロードできる。性教育にまつわるQ&Aや、学校現場での実践事例などの情報も集積する。
 担当者は「教員養成課程には性教育に特化した必修科目が存在しない。教育現場の悩みを解決し、各地の知見を集積したい」と述べた。デートDVチェッカーは浜松市が導入を決めた。本年度から学校講座などを通じて高校生に配布する。

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