あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 編集部セレクト

“頭蓋骨”を通り抜けて 美術家・中村昌司さん(掛川市)個展

 美術家中村昌司さん(69)=掛川市=は、静岡県内外各所で繰り広げる空間芸術(インスタレーション)で知られる。災害で失われた命への鎮魂を込めた赤いささ舟を展示するプロジェクトを、浜松城公園(浜松市中区)などで展開。大井川鉄道沿線で行うアート祭「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川」では、赤や緑の布で区切られた“部屋”に大井川の水をしたたらせた。

個展に向け屋外で創作にいそしむ中村昌司さん。オーガンジーの布にペンキで銀の円を描く=2月中旬、掛川市(写真部・杉山英一)
個展に向け屋外で創作にいそしむ中村昌司さん。オーガンジーの布にペンキで銀の円を描く=2月中旬、掛川市(写真部・杉山英一)

 出発点は、東京芸術大で油絵を学んでいたころ。「平面の中で塗ったり削ったりする造形活動に意味を感じられなくなった」。美大生としての葛藤を抱え、石油危機後の社会をにらみながら、表現方法を模索した。
 「大勢のホームレスがいる上野公園の近くを、サラリーマンでぎゅうぎゅう詰めの電車が走って行く。二つが同じ世界とは思えなかった」。自分の立ち位置が判然としない中、ある種の恍惚[こうこつ]とともに音楽が聴こえてきた。自らに取り込んだこの感覚を「浮游」と名付け、現在も続く作品の主題とした。
 大卒後、美術講師として在籍した焼津中央高で出会ったのが、先鋭的な美術家集団「幻触[げんしょく]」の一員だった小池一誠さん(1940~2008年)。「『分かった』と言われるようなものを作るな、と。禅問答のようだったけれど、教えが今も“呪縛”のように残っている」
 今回展では、1辺5メートルほどの方形の天井を作り、高さ約2メートルから薄く白い布をのれん状にたれ下げる。「布はいわば僕の頭蓋骨で、中の空間は僕の脳みそ。(鑑賞者は)生と死の間をくぐり抜けて入ってくる。そういう場で何が見えてくるかを知りたい」

 中村昌司さんの個展は4~12日、ボタニカ(静岡市葵区)で開催される。

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

編集部セレクトの記事一覧

他の追っかけを読む