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大自在(3月29日)国語辞典

 小説家の井伏鱒二は1966年に文化勲章を受章した際、自宅に来た新聞記者に問われて「晴れがましい」と答えた。すぐに「広辞苑」を引いて「あ、ちょっと違いますね、ぼくのはもっと照れくさいという気持ち」と得心したような顔をしたという。
 この記者は、後に産経新聞の朝刊コラム「産経抄」を35年にわたり執筆した石井英夫さん。大作家の所作に「感動した」(「コラムばか一代」)。広く知られるエピソードらしく、朝日新聞の元論説委員も引用していた。
 記者に国語辞典は必携だ。言葉の意味と使い方を確かめる。辞書がないと読めないような記事は書くな、辞書にない言葉を使うなと言われ続け、いつしか自分が言う側になった。
 辞書が本欄のソースになることもある。会席の献立にあった「丸十」はサツマイモのこと、「恵方巻き」という呼称は新しいことなどを知った。担務に重圧はあるが知識が増えてやりがいも感じる。
 先日、スーパー従業員の「髪色自由化」を取り上げた時、「髪色」が引っかかった。意味は字の通り、日常会話でも使われるが、「髪形」「顔色」「声色」のように定着しているだろうか。
 辞書を数種類開いた限り、「髪色」を立項しているのは「自分事」を載せた1冊のみ。「比べて愉しい国語辞書」(ながさわ著、河出書房新社)は「癖字」などを例に辞書の深い読み方を教えてくれる。紙の辞書には、コラムや付録など電子辞書にはない読み物があり、何よりめくる楽しみがある。入学や入社を機に買うなら、いろいろ比べてみるといいと思う。

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