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【終章】遺したもの㊥ 支えた母 喪失感 夢でも会いたい【青春を生きて 歩生が夢見た卒業】

 寺田歩生[あゆみ]さんの母有希子さん(54)は、4年に及んだ歩生さんの闘病を昼夜を問わず支えた。思うように治療の効果が上がらず、焦りや悔しさを感じた日々。救いになったのは、歩生さんのユニークな言動や、闘病中に迎えた愛犬「豆吉」の存在だった。

2度目の高校1年生の頃の寺田歩生さん(友人提供)
2度目の高校1年生の頃の寺田歩生さん(友人提供)

 「家族で笑い合っていると、重い心を忘れることができた」
 周囲の人々の優しさや思いやりが支えになった。今も、自宅やお墓を訪ねてくれるなど心に留めてくれる友人や恩師がいる。歩生さんが通った県立磐田北高は、遠隔授業の導入に尽力してくれた。県内の県立高に広がり、大きな足跡を残した。「皆さんの応援が力になった」
 一方、最愛の娘を失った喪失感もまた、家族に残されたものだ。2023年11月に磐田市内の寺で執り行われた歩生さんの三回忌。「同じ場所にとどまってはいけません。故人は新たな場所で活躍することを願っています」。住職の説教に耳を傾けた有希子さんは、そっと目元を拭った。
 「きっと、とどまったままだからでしょう。踏み出さないといけないって思っているけれど、できない自分がいて」
 同校の教諭をはじめ接した人々は皆、有希子さんを「明るく、気さくなお母さん」と評するが、心には大きな穴が開いたまま。「歩生と関わった時間が長い分、整理しきれていないのだと思う」。長女侑加さん(27)はおもんぱかる。
 後悔-。有希子さんにはそんな思いがある。かかりつけ医とは、延命治療はしないと決めていた。静かに逝かせてあげるつもりだったが、歩生さんが間際に息苦しさを訴えた時、動転し侑加さんとともにとっさに119番し、救命措置を施した。
 「抱きしめて腕の中で逝かせてあげたかったのに、できなかった…」と声を震わせる。「後悔のない最期を迎えてほしい。その瞬間をどうするか、家族で話し合ってほしい」。同じ境遇にある人々への切なる願いだ。
 歩生さんに、いつでも帰ってきてほしいと願っている。仏前には、歩生さんの好物のネギトロを供えている。生ものは好ましくないと承知の上で。父武彦さん(56)は、夢に歩生さんがよく出てくるという。有希子さんは、まだ体験していない。母は待っている。
 「あゆ、夢の中でいいから会いたいよ」

 メモ
 寺田歩生さんの母有希子さんは、学校と静岡県教委が連携して病気療養している高校生の実態を把握することも願う。県教委は、病気療養し遠隔授業を受けている生徒については報告を受けているが、遠隔授業を受けていない場合、把握するのは難しい。県中部の県立高で2月、病気で自宅療養している生徒が遠隔授業を受けられていなかった現状が判明した。有希子さんは「教育が受けられず悲しい思いをする生徒を出さないでほしい。療養が必要な生徒の把握はその第一歩だと思う」と話す。

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