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テーマ : 編集部セレクト

D自在(4月15日)湖西市が全国シェア8割、コデマリの物語

 もしここに暴君が現れてすべての書物を取り上げ、1冊だけ許すと言ったら、どの本を残すか―。

浜名湖花博2024で展示されたコデマリなどを使った生け花=浜松市の浜名湖ガーデンパーク(浜松総局・山川侑哉)
浜名湖花博2024で展示されたコデマリなどを使った生け花=浜松市の浜名湖ガーデンパーク(浜松総局・山川侑哉)
純白の小さな花が集まった様子が優雅な手毬(てまり)のように見えるコデマリ
純白の小さな花が集まった様子が優雅な手毬(てまり)のように見えるコデマリ
浜名湖花博2024で展示されたコデマリなどを使った生け花=浜松市の浜名湖ガーデンパーク(浜松総局・山川侑哉)
純白の小さな花が集まった様子が優雅な手毬(てまり)のように見えるコデマリ

 「二十四の瞳」で知られる小説家壺井栄(1899~1967年)は、こう夫に問われて即座に牧野富太郎博士の「植物図鑑」と答えた。図鑑から得た知識を知識にとどめず、自分の経験と生活の中に溶かし込んで、花の物語を紡いだ(「わたしの花物語」解説)。
 花の名をタイトルにした一連の掌編から「こでまり」(55年)を読んでみた。結核療養所を退院するまでに回復した女性がコデマリの花束を持って訪ねて来る。主人公がこの女性を療養所に見舞った時に持って行ったのがコデマリと赤いカーネーションの花束だった。作中の会話に病への不安と治癒の喜びがにじみ出る。
 コデマリは湖西市が全国シェア8割を誇る。弓のように伸びる枝に、白い小花が集まって手毬(てまり)のような形に咲く。フラワーアレンジメントや寄せ植えの引き立て役として人気があり、浜松市で開催中の「浜名湖花博2024」ガーデンパーク会場では見事な生け花が日本一の産地アピールにひと役買った。
 技術やアイデアを結集し茶産業の革新を目指す静岡県の「ChaOI(チャオイ)フォーラム」の2023年度報告会で発表したチャフラボン研究所(静岡市)代表の石田均司静岡県立大客員研究員(74)は、湖西市のコデマリ栽培発祥の地、横山地区出身。茶成分のチャフロサイドBが、日焼けやアトピーなど炎症に効果があるという研究を10年以上続け、美容健康茶を開発し、化粧品メーカーと商品化したこともある。研究を続けるには企業や農家との協働が不可欠だと強調した。
 研究生活の原点には、父親ら地区の花卉(かき)農家が接ぎ木や温室栽培などコデマリ特産化へ工夫を凝らし、切磋琢磨(せっさたくま)する姿を間近で見ていた少年時代の経験があるという。
 農産物が秘めたさまざまなパワーに目を向け、農業と生産家に敬意を表したい。
(論説副委員長・佐藤学)

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