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緊急連載【衝撃 知事辞意表明㊦】リニア「投げ出し」 部分開業、最後まで固執

リニア建設促進期成同盟会の総会であいさつする川勝平太知事=2023年5月31日、都内
リニア建設促進期成同盟会の総会であいさつする川勝平太知事=2023年5月31日、都内

 「みなさん、見ましたか。私たちの勝ちです」
 川勝平太知事は2023年12月、JR東海がリニア中央新幹線静岡工区着工の見込みが立たないことを理由に開業時期を27年から「27年以降」に国に変更申請したことについて、県幹部の前で興奮気味に語った。居合わせた幹部は「目的が工事の環境影響の最小化ではなく、開業を遅らせ、自らの主張をJRに認めさせることにすり替わっている」と疑念を抱いた。
 17年10月の記者会見で「堪忍袋の緒が切れた」と息巻き、JRとの対決姿勢を鮮明にした川勝知事。現在も続く協議の中で、導水路トンネルや「田代ダム取水抑制案」を通じ、トンネル工事湧水全量を大井川に戻す方策をJRから引き出した。当初のJRの環境対策が不十分で、リニアが県内にもたらす経済効果が不透明なこともあり、自然環境の保全や住民の不安に寄り添う姿勢は県民に受け入れられ、4回の当選を重ねる原動力になった。
 川勝知事はリニア事業自体には賛成だとし、22年7月に沿線都府県でつくる建設促進期成同盟会に加盟した。一方で、この頃から静岡工区がある山梨県甲府-長野県飯田を除いた区間の「部分開業」の持論への固執が目立つようになった。部分開業を実現させるにはJRの事業計画の変更が必要と考え、他県の工事を視察しては工区の遅れの指摘を繰り返した。各地の反発を買い、昨夏には川勝知事を期成同盟会から除名しようとする動きも出た。
 JRの環境対策を協議する県有識者会議専門部会の議論は出口が見えず、内容も次第に迷走した。山梨県内で行われるボーリングが静岡県内の水資源に影響することを懸念し「湧水が山梨のものか静岡のものかを区別する」という難解な議論は袋小路に陥った。川勝知事と懇意とされる山梨県の長崎幸太郎知事も「おかしな議論になっている」と首をかしげた。
 辞意表明翌日の3日の臨時記者会見。川勝知事は辞職を決断した理由に、JRが静岡工区の工事に約10年かかるとの見通しを示したことを挙げ、「県民と(解決を)約束したリニア問題について一里塚をしっかり越えた」と強調した。これには、これまで川勝知事の姿勢を評価してきた大井川流域住民の多くが「環境や水の問題はまだ議論の最中。解決していないのに」と違和感を覚え、落胆した。
 県庁での同日の面会者に対しては「リニア事業は中止も視野に検討すべき」との趣旨の考えを説いた。公言してきたリニアの早期開業と環境保全の両立とは完全に相反する。課題に正面から向き合わず、主張の正当性を認めさせることにこだわった川勝知事が周囲から孤立を深めるのは当然の流れだった。

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