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【静岡呉服町火災殉職】上層部の意識変化が不可欠 市長、改善策徹底誓う

 静岡市消防局駿河特別高度救助隊の男性=当時(37)=が殉職した雑居ビル火災事故を巡り、市が28日に公表した市消防局の組織的課題などに関する再検証報告書。難波喬司市長は消防局職員に実施したアンケート結果も交え、消防の問題点の数々を厳しい表現で強調し、組織風土などの改善徹底を誓ってみせた一方、消防関係者からは「消防上層部の意識が変わらない限り期待できない」「組織の失敗に何を学ぶかだ。問題点を一つ一つ洗い出し、再発防止策を確実に実行するよう注視する」など、諦めにも近い言葉や改善策実行への注文の声が交錯した。

静岡市葵区呉服町の消防士殉職火災について組織的課題の観点で調べた検証結果を報告する難波喬司市長=28日午前、市役所静岡庁舎
静岡市葵区呉服町の消防士殉職火災について組織的課題の観点で調べた検証結果を報告する難波喬司市長=28日午前、市役所静岡庁舎

 回答した消防隊員の1人は「事故後、安全管理について厳しく言われるようになったのは確かだが、局が変われるかどうか、特段の期待はしていない」と冷静に話す。上層部の意識変革こそが大前提と訴える一方で、「局内には権力者がいて、誰も逆らえない状態が続いている。明らかにおかしいと思うことが、そこで決まっている印象がある」などと内情を打ち明けた。
 「あり得ない活動が現場で行われていたのが事実。組織的対応に問題があると言わざるを得ない」「このままでは同じような事故を起こしてしまうという強い危機感を持っている」―。難波市長のこうした表現を動画配信で視聴した関係者は「今の消防組織は本気で再発防止に取り組んでいないと感じてしまう。市長の意思を確実に実行に移した、抜本的な変化を期待するしかない」と受け止める。
 難波市長は会見で記者の問いに対し、検証結果などは遺族に事前説明したとして「(遺族は)とにかく組織の改善を願い、『二度と起きないように』とのお気持ちをおっしゃっていた」と明らかにした。
規範意識、指揮体制 アンケートで組織的課題浮き彫りに

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 静岡市が火災、災害現場で消防活動に従事する市消防局職員669人を対象に行ったアンケートでは、「警防(火災、災害現場での消防)活動に関する各種規定について十分に教育や訓練がされていない」との回答が全体の37・5%に達するなど、規範順守意識や現場での指揮体制に関する組織的課題が浮き彫りになった。
 消防活動の規定に関する設問では、「十分に教育や訓練がされていないと思う」と251人が回答し、階級別では小隊長クラスの消防司令の回答率が121人中65人(53・7%)と高い割合を示した。理由の自由記載では、「訓練・教育にかける時間・回数が足りない」との趣旨の内容が65件で最も多かった。
 過去に従事した消防活動で現場全体の統率に関する認識を聞く設問では、全体の45・9%に当たる307人が「統率がとれていないと思ったことがある」と回答した。理由としては隊長の指示不足や隊員間の情報共有不足を挙げる意見が多かった。


記者の目 〝魂〟なき対策、別の危険に  

静岡市消防局駿河特別高度救助隊の隊員が殉職した事故を受けた市の検証結果では、消防局の組織として規範や安全管理の不徹底、指揮体制、組織風土に問題を抱えていることが指摘された。組織が機能不全のまま今も隊員の安全が確保されない状況が続いている。
 同消防局管内では2020年7月にも吉田町の「レック静岡第2工場」で発生した火災で屋内進入した消防隊員と警察官計4人が殉職する事故が起き、屋内進入のルール改正を進めていたさなかで、同市葵区呉服町の雑居ビル火災が発生した。市による再検証では、殉職事故に至るまでの過程に訓練経験のない方法による指示や、いくつもの規範どおりではない活動が重なっていたことが浮かんだ。
 現場で最高指揮官を担った当時の管理職は19年に道交法違反罪で有罪判決を受け、本来なら失職していたことも火災後に発覚した。指揮体制の問題が指摘される中、昨年11月の市によるアンケートで半数近い消防職員が「統率がとれていないと思ったことがある」と答えた。今も教訓が生かされているとは言えない。
 一方、ある消防関係者からは「安全管理に厳しくなったことで訓練負担が増えている」との本音も聞こえる。現場の負担を増やすだけで“魂”を込めない対策は別の危険につながる。
 今後の見直し作業は局内に設置する消防長直轄組織で進むという。市長自身も強い危機感や責任感を持ち、再発防止の取り組みに目を光らせ続けてほしい。
 (社会部・吉田史弥)

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