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大川原製作所 製造業でも女性活躍推進【しずおか企業探訪~経営とD&I~④】

 今年3月に、各都道府県の男女格差を測る「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数2023」が発表されました。わが静岡県は、経済分野のランキングがなんと最下位の47位でした。この全国最低の男女格差の主な原因は、男女間の賃金格差が大きいことです。
 こうした静岡県の男女格差の大きさには、産業構造が影響していると言う人もいます。製造業が多い静岡県では、力仕事など男性が主戦力となる仕事が多いからというのがその理由です。しかし、本当に製造業では女性が活躍すること、すなわちダイバーシティの推進は難しいのでしょうか。
 吉田町にある大川原製作所は、従業員数264人の乾燥装置メーカーです。資材の乾燥や濃縮を行う工作機械をオーダーメードで製造し、顧客の食品メーカーや製薬会社に納品しています。製造工程で使われている同社の機械自体は一般的には目にする機会がありませんが、その機械を使用する顧客の商品を見ると、調味料や紙おむつなど、私たちの暮らしに身近なものもあります。
 同社は近年、ダイバーシティ推進に力を入れています。きっかけは取締役副社長の大川原綾乃さんが後継ぎとして入社したことでした。マーケティングを学んだ大学でも前職でも、多くの女性がプロジェクトを推進していました。
 当たり前のように女性が活躍しているのを目にしていた大川原さんは、男性ばかりが目立つ大川原製作所の状況に違和感を抱き、ダイバーシティ推進の取り組みを始めました。働き方改革のための社内プロジェクトを立ち上げるなど女性が活躍しやすい職場環境を整え、事務職から総合職へのコース統合を実現したり、女性の工場配属を目的とした社内インターンを実施したりするのと同時に、管理職の意識変革を進めました。
 こうした取り組みの結果、女性だけでなく、男性にも変化が見られるようになりました。変化に対する耐性や思考の柔軟性が高まったことで、新しい情報が入ってくるようになりました。「とりあえずやってみる」という風土ができ、社員食堂で出る残渣[ざんさ]を使って肥料をつくったり、端材でキーホルダーを製作したりするアイデアも生まれました。以前の工場は会話がなく静かで緊張感がありましたが、今では同僚と仲良く談笑をしながら昼食に向かう社員の姿や、生産現場で働く若い女性技術者の姿が見られます。何より会社としての柔軟性が高まったため、戦略の選択肢の幅も広がったと言います。
 「女性のためではなく、会社の未来のためのダイバーシティということが皆に腹落ちしているのでは」と語る大川原さんの取り組みは、製造業でもダイバーシティの恩恵を受けることはできると証明しています。

 ポイント
 ・ダイバーシティ推進が企業戦略の幅を広げる
 ・多様な人材の活躍で製造現場に活気
 【大川原製作所】吉田町。1927年に創業し、茶業向け乾燥機の製造を開始。現在は乾燥装置メーカーとして、食品、化学、医薬、環境の各分野に事業を広げている。2017年に経済産業省より「新・ダイバーシティ経営企業100選」の認定を受けた。

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 こくぼ・あきこ 経営学博士。静岡県立大経営情報学部准教授(組織マネジメント)。企業や官公庁の組織開発プログラムやコンサルティングを手がける「ワークシフト研究所」所長。


 (国保祥子・県立大経営情報学部准教授)

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