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「誰でも通園」不安の声 有識者、態勢整備訴え 静岡県内保育士「現場任せ」「手いっぱい」

 国が検討している子育て世帯の支援策「こども誰でも通園制度」に対し、県内の保育士から不安の声が上がっている。保護者の就労要件を問わず、未就園の生後6カ月~2歳なら誰でも保育施設を定期利用できる仕組みだが、労働環境が改善されない中で新たな園児を受け入れることに現場の抵抗感は強い。有識者は「十分な受け入れ態勢を整えなければ現場の多忙感は増し、いわゆる不適切な保育にもつながりかねない」と懸念する。

こども誰でも通園制度のイメージ
こども誰でも通園制度のイメージ


 「保育士の配置基準も賃金水準も変わっていない。現場任せだ」。静岡市の保育園に勤める50代女性保育士は、ため息をつく。子どもは1歳半ごろから自我が芽生え、意思表示をするようになるとされる。女性は「『イヤイヤ』になったり、友達とおもちゃを取り合ったりすることもある。短時間預かる中で、もしけがをさせてしまったらどうなるのか」と心配を募らせる。
 伊豆の国市の30代女性保育士は「低年齢でも集団生活で友達との関わりを学ぶことは意義がある」と評価する一方、預かり時間の上限が今後増え続けることを懸念し、「母親との時間が大事な0歳から2歳の子を、誰もが長時間預けるのが当然の社会になってしまわないだろうか」と疑問も口にする。浜松市の40代女性保育士は「今いる園児を見ることで手いっぱいなところが多いのではないか。預かる側の意見も取り入れて進めてほしい」と話す。
 こども家庭庁は学識経験者や保育所関係者ら18人で構成する検討会を9月に設置し、制度設計を議論してきた。11月の会合では委員が「これまでも保育者は『やりがい』というものに押しつぶされ、疲弊してきた」と訴え、人員確保やストレスの把握、処遇改善加算への反映などを求める場面があった。通常保育に比べて短い預かり時間の中で愛着を形成する難しさなども現場の課題として指摘されている。同庁保育政策課の担当者は、現場の負担軽減策について「モデル事業の運用を見て検証を深めたい」とする。
 保育政策の研究に取り組む民間団体「保育研究所」(東京都)の村山祐一所長は「通常保育の子と『誰でも通園』の子のどちらに合わせたらいいのか分からなくなると、保育士は叱り方などに悩み、不適切な保育につながりかねない。0歳から2歳は発達状況が急に変化する子もいて、保育者は専門性がより問われる」と指摘する。その上で「通常保育と別の部屋を用意するなど環境面も含めた基準を国がきちんと作り、監督責任を持つことが欠かせない」と強調した。
 (社会部・木村祐太)

 <メモ>こども家庭庁によると、0~2歳児の約6割が未就園児で、「こども誰でも通園制度」は保護者が孤立した育児に悩み、虐待などにつながることを防ぐ狙いがある。検討会では利用時間は1人当たり月10時間を上限とする案が示された。同制度に対応する施設は市町村が指定する仕組みを検討している。
 本年度は全国31自治体でモデル事業を実施している。県内では島田市が市内の認定こども園1カ所で8月から受け入れを開始し、現在0~1歳児5人が利用している。同庁は来年度にかけてモデル事業を約150自治体に拡充する方針。

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