テーマ : 美術・絵画・写真

書家 柿下木冠さん(静岡市駿河区) 極めた先の平和を希求【表現者たち】

 現代書界の第一線で長年活躍する柿下木冠[ぼっかん]さん(83)=静岡市駿河区=。世界の今を問う造形書は鋭い。「80を超えてなお、心を揺さぶられたのがロシアのウクライナ侵攻。まさに戦争だ」と作意を語る。

全身の力を筆先に込めて書く柿下木冠さん。線の潤渇、白の空間を意識して臨む=静岡市駿河区(写真部・坂本豊)
全身の力を筆先に込めて書く柿下木冠さん。線の潤渇、白の空間を意識して臨む=静岡市駿河区(写真部・坂本豊)
甲骨文字で書いた「自由」。一基書展の出品作の一つ
甲骨文字で書いた「自由」。一基書展の出品作の一つ
全身の力を筆先に込めて書く柿下木冠さん。線の潤渇、白の空間を意識して臨む=静岡市駿河区(写真部・坂本豊)
甲骨文字で書いた「自由」。一基書展の出品作の一つ

 平穏な日常を奪われた時の困難は計り知れない。その対極にある「自由」の2文字。墨の濃さ、筆線の勢いに思いを込めた。何度も見た映画「ひまわり」の「ウクライナの広い青空とひまわり畑は、自由の象徴だろう」。余白に、はるかなる情景も重ねる。
 一方、独裁者の横暴さを「脅」の1文字で痛烈に批判する。「広場」には、街の中心に人々が集い、自由な言論やにぎやかな祝祭が戻ることを願う。師で昭和を代表する書家手島右卿[てしまゆうけい]の「書が極まってくると、『平和』につながる」という言葉を改めてかみ締める。
 全身の力を筆先に集中させ、「線の芸術」と向き合う。ふるさと川根本町の風土を映した「八十八夜」は、柔らかな線が立ち並び、茶畑を吹き抜ける薫風を連想させる。かすれは光に満ち、細い線質は弱々しさではなく、慈しみという。線と線、字と字の間に現れる白が空間を一つにする。
 筆を持つのと等しく、墨すりにも力を尽くす。新聞を読む時も、音楽を聴く時も、右手は墨を離さない。「黒に五彩あり。筆、紙、墨。準備を整えた先に導かれるものがある」
 静岡県は現代書発祥の地と評される。高校生の柿下さんに書の道を照らした山崎大抱[やまさきたいほう]や、手島らの書線を追う一方、40歳で「一基会」を発足させ、自らの人生観を国内外で示してきた。「書からの呼びかけがあるかどうか」。技術ではなく本質、一瞬の勝負に挑む。

 第38回一基書展は30日~6月4日、静岡県立美術館県民ギャラリー(静岡市駿河区)で。柿下さんは近作8点を出品する。

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