テーマ : 美術・絵画・写真

北海道小樽市 繊細な光の絵画 間近に【光もとめて②】

 色鮮やかなガラスで聖書の教えや幾何学模様を描いたステンドグラス。英国の教会に飾られていた数々の作品を展示するのが、北海道小樽市の「ステンドグラス美術館」だ。人々が祈りをささげた光の絵画を見ようと、北の商都へ向かった。

大正時代の大豆倉庫を活用したステンドグラス美術館=北海道小樽市
大正時代の大豆倉庫を活用したステンドグラス美術館=北海道小樽市
167個の石油ランプが店内を照らすカフェ「北一ホール」。開店前に手作業で行われる点灯は、見学も可能
167個の石油ランプが店内を照らすカフェ「北一ホール」。開店前に手作業で行われる点灯は、見学も可能
北海道小樽市
北海道小樽市
大正時代の大豆倉庫を活用したステンドグラス美術館=北海道小樽市
167個の石油ランプが店内を照らすカフェ「北一ホール」。開店前に手作業で行われる点灯は、見学も可能
北海道小樽市

 石狩湾に面し、港湾都市として発展した小樽市。札幌から海沿いを走るJR函館線で小樽駅に着くと、真っ白な銀世界が広がっていた。訪れたのは2月下旬。寒空を飛び交うカモメの鳴き声を聞きながら、駅から歩くこと10分、小樽運河のすぐそばに美術館はある。
 「通常は、高い位置にあることが多いステンドグラスを間近に、目線の高さで見られるのは美術館ならではです」と話すのは、学芸員の金沢聡美さん。展示する98点は1800年代後半から1900年代初頭に英国の工房などで制作され、教会の取り壊しなどを経て日本に渡ってきたものだという。
 薄暗い館内でステンドグラスに近づくと、顔料で描かれた聖人の表情や衣服が想像以上に写実的で驚かされる。建築物の絵柄は立体的で荘厳。草花や虫の装飾が鮮やかな色彩で隅々にまで施されている。
 古くは、文字を読めない人々が聖書を理解する手だてにもなったステンドグラス。イエス・キリストの生涯が一目で分かる作品もあれば、故人を悼んで教会に寄進された作品も目立つ。先立ったわが子や妻、第1次世界大戦の戦没者…。ステンドグラスに刻まれた銘文から、愛する人の冥福を願う思いが静かに伝わる。
 同館からほど近い「似鳥美術館」にも著名なステンドグラスがあると聞き、足を運んだ。かつて「北のウォール街」と呼ばれた小樽を象徴する建物の一つ、旧北海道拓殖銀行小樽支店を活用した館内で、米国のガラス工芸家ルイス・C・ティファニーの作品がやわらかな光を放っていた。
 ニューヨークの高級宝飾店の創業者一族として生まれたルイスは、ガラスの表面に絵を描く伝統的な手法に加え、可能な限りガラスの素材と色彩で絵柄を表現する技法を探究した。「十字架の天使」はガラスだけで天使の羽根の毛並みが描かれ、その美しさにうっとりと見とれる。
 かつてニシン漁でにぎわった小樽市は、漁に使う浮き玉などガラス製品の産地としても栄えた。その名残を今に伝えるのが、カフェ「北一ホール」。明治時代に保温性の高い小樽軟石やエゾ松で建てられた漁業用倉庫の中にあるカフェは「扉を閉めれば昼でも真っ暗」とスタッフの岡田乙志さん。倉庫の通路にはかつて海に荷物を運んだトロッコのレールも残っている。
 むき出しの木の梁[はり]が印象的な店内を、167個ものガラス製の石油ランプが照らす。天井からはランプのシャンデリアが下がり、いくつものオレンジ色の火が浮かんでいる。ほのかなともしびが生む陰影も美しく、まるで別世界に迷い込んだかのようだ。ぬくもりある光を眺め、幻想的な気分に浸った。

 【メモ】ステンドグラス美術館の入館料は一般1200円など。

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