テーマ : 美術・絵画・写真

鈴木慶則「水の絵」展に寄せて 「絵画」とは何かを追求

 清水に生まれ、1960年代末のアートシーンに大きな足跡を残した画家・鈴木慶則を回顧する「水の絵」展が静岡市清水区のフェルケール博物館で開催されている。

「水の絵」展の会場風景=静岡市清水区のフェルケール博物館
「水の絵」展の会場風景=静岡市清水区のフェルケール博物館

 副題は「『幻触』と『幻触』以降の鈴木慶則」。「幻触」とは、静岡を拠点に全国的にも注目された60年代のグループで、鈴木はその中心的なメンバーだった。彼は当時、美術史的な「名画」の模写とキャンバス裏面の精緻なだまし絵とを同一画面内に併置させた「非在のタブロー」シリーズを展開。それはまさに時代が生んだ絵画論的絵画の傑作といえよう。
 そして後者は78年から30年余りにわたり、「水を用いて水を描く」試みを続けたもう一人の鈴木慶則である。今回の「水の絵」展は、それら二つの時代の代表作を展示するとともに、必ずしも評価に恵まれなかった後者にむしろ力点をおいて、氏の画業をトータルに検証する機会になっている。
 鈴木は78年に始まる作風の転換に、自ら「転向」という言葉をあてた。しかしそれは「絵画とは何か」という生涯をかけた問いへの異なるアプローチに他ならない。そこで鍵になるのは水墨画との関係である。
 「転向」の翌年、鈴木は狩野派の礎を築いた狩野元信に関する論考を執筆し、水墨画への深い関心を述べている。しかし自身の制作では水墨画に触発されながらも山水図や花鳥図といった中世的な画題から距離をおき、また三遠法などの伝統的な画法・筆法にもよらず、ただ破墨、ぼかし、たらしこみといった水と墨との関わりが精神性を帯びる可能性に関心を集中させていった。
 さらに鈴木は墨さえも手放し水のみによる描画に限りなく近づく。そして水の絵は、独特のあぶり出しの手法で、あるいは金属粉の固着によって「水の景」として可視化された。
 1980年代末の屏風[びょうぶ]の大作、そして最晩年の二曲一双屏風も見どころの一つで、仮設的な空間演出をもたらす屏風という絵画形式の、洗練された華やぎが示されていた。
(白井嘉尚/美術家)
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 「水の絵」展は5月12日まで。

 

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