テーマ : 美術・絵画・写真

北斎「冨嶽」と異なる魅力 静岡市東海道広重美術館/歌川広重「冨士三十六景 駿河薩タ之海上」(1858年) 【コレクションから⑨】

 画面手前に大きくうねる波が立ち上がり、岸壁に打ち寄せている。東海道の由比宿と興津宿の間にそびえる難所、薩埵峠の沖から望む富士山を描いた歌川広重の浮世絵版画の作品である。

静岡市東海道広重美術館 歌川広重「冨士三十六景 駿河薩タ之海上(するがさったのかいじょう)」(1858年)
静岡市東海道広重美術館 歌川広重「冨士三十六景 駿河薩タ之海上(するがさったのかいじょう)」(1858年)

 葛飾北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を彷彿[ほうふつ]とさせる大波が描かれているが、湾奥は穏やかで漁船や帆掛け船が航行し、さらにその奥に富士山が悠然と佇[たたず]む。波と富士山の中間にある景色を自然な遠近感で捉えており、まるで現地で実際に風景を目にしているかのような写生的な描写は、“広重めいしょ”と謳[うた]われた広重ならではと言えるだろう。
 この作品は「冨士三十六景」と題された、各地から見える富士山を主題とした36図のシリーズ(揃物[そろいもの])の一つである。広重の没年、安政5(1858)年に検閲を受けた証しの改印を持ち、その翌年に目録を付けて刊行された最晩年の作品である。
 広重は天保4(1833)年頃に30代半ばで「東海道五拾三次之内」を手がけ、一躍人気絵師の仲間入りを果たした。その後、名所絵師番付の第1位に挙げられるまでになった広重がその自負をもって描いた富士の連作。奇抜な構図で知られる北斎の「冨嶽三十六景」とはまた異なる広重の魅力をぜひ感じていただきたい。(山口拓海・学芸員)

 <メモ>静岡市清水区由比297の1 <電054(375)4454>
 「冨士三十六景 駿河薩タ之海上」は、8月13日まで開催中の「広重か北斎か~二人が描いた富士の景」展に出品している。

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