テーマ : 美術・絵画・写真

大型絵画の運搬ピンチ 静岡県内業者減、画材店閉店相次ぐ 地域の作家危機感

 地域の絵画展で大型作品を見る機会が減ってしまうかもしれない-。経営環境の悪化などによる画材店の減少により、静岡県内で100号(大きさ約162センチ×130センチ)以上の大型絵画の運搬を担う業者が減っている。県内の美術関係者は「運搬を専門的に担う画材店や画廊の規模縮小は地方だけでなく都心部でも進んでいる問題」と指摘する。

苦労して業者を手配し搬入した100号サイズの絵画作品が並ぶ作品展=2023年11月中旬、浜松市中央区
苦労して業者を手配し搬入した100号サイズの絵画作品が並ぶ作品展=2023年11月中旬、浜松市中央区


 関係者によると、浜松市では十数年前から、経営悪化を理由に店を畳む画材店が相次ぎ、大型絵画の運搬業務をしているのは書絵堂(中央区)と画創清水(同区)の2業者のみ。展示の始まる1週間ほど前に各作家の自宅で作品を受け取り、終了後に作家に返却している。
 担当者は「当初はお手伝いのような感じで始まった。正直、この業務にもうけはない」と話す。大手宅配会社は美術品を扱う専門事業所の拠点が県内になく、運搬を頼むと、県外から作業に当たるため、数十万円の費用がかかるという。
 浜松美術協会の根岸英会長(82)は昨年11月の絵画教室生徒たちの作品展で、運べないなどの問題に直面し改めて危機感を感じた。
 愛好家の高齢化や趣味の多様化などで以前から業界は縮小傾向にあったが、コロナ禍の展示会中止期間で作家の創作意欲の低下も需要の低迷に拍車をかけたという。根岸会長は「今の状況では今後も業者が増えることは難しい。描き手としては大きな絵を描いて、多くの人に見てもらいたいのだが…」と声を落とす。
 サービスとして数千円で運搬を担ってきた画材店の担当者は「インターネット販売が浸透して、ほしい画材が簡単に手に入るようになった。本来の業務である画材販売は年を追うごとに厳しくなる一方」と、将来への不安を口にする。
 大型絵画は作家の苦労が詰まり、来場者の目を引く特別な作品。書絵堂の石山遼次統括部長(36)は「地元作家と地元画材店のつながりは深い。できる限り長く地域のために大型絵画の運搬を担っていきたい」と話す。
 (浜松総局・小林千菜美)

いい茶0

美術・絵画・写真の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞