テーマ : 美術・絵画・写真

染色画家 松井妙子さん(島田市) 布に描く自然への敬愛【表現者たち】

 ふっくらとした丸みが愛らしいフクロウ、どこまでも広がる菜の花畑。染色画家松井妙子さん(75)=島田市=が描く独自の世界は、風景と図案が一体化したよう。淡くも明瞭な描写が、布地の柔らかさと調和する。

旧東海道金谷宿沿い、明治時代に建てられた商家が松井妙子さんの自宅アトリエ。彩色筆で細やかに描き進める=島田市(写真部・杉山英一)
旧東海道金谷宿沿い、明治時代に建てられた商家が松井妙子さんの自宅アトリエ。彩色筆で細やかに描き進める=島田市(写真部・杉山英一)
フクロウやカワセミは松井作品の代表的なモチーフ
フクロウやカワセミは松井作品の代表的なモチーフ
旧東海道金谷宿沿い、明治時代に建てられた商家が松井妙子さんの自宅アトリエ。彩色筆で細やかに描き進める=島田市(写真部・杉山英一)
フクロウやカワセミは松井作品の代表的なモチーフ

 高校時代、生物クラブで草花の色素を研究した。「研究者か、詩人になりたかった」。慶応大文学部を卒業後、会社勤めの傍らで始めたのが手描き更紗だった。
 なぜ布か。「ツバキの絵が入ったつむぎの帯が欲しくて」。特別な師はいない。素材は木綿をはじめ、麻、くず布、しな布などさまざま。「真っすぐに描けないから、優しい線になる。鋭角ではなく鈍角ね」。防染のりも手作りする。個展は年1回と決め、静岡市内の百貨店で披露してきた。
 カワセミが止まる杉の倒木に、若芽を描き入れる。こけむした幹の中の小さなもえぎ色。「森が好き。全ては森から始まっているから」。幼いころ親しんだ風景、国内外の旅先で登った山々、出合った生き物への敬愛を投影していく。
 頭に詩が浮かんでから描くことも多い。これまでに詩画集を3冊発表した。大井川を渡るSLの作品には「ときには/立ち止まって/耳を澄ませてごらん」。屋久杉を見上げた作品には「樹の中から/宇宙が見える」。「三好達治、宮沢賢治らの詩に親しんできたことが、巡って染色とつながっていると実感する」
 半世紀近くになる画業。「癒やしをもらう、絵と対話しているという声には感謝しかない。これからは恩返しの時間」と心する。
 17日から始まる個展では、麻布に描いた作品を中心に発表する。「麻は張りがあって質感が気に入っている。時代の変化を受け止めながら、人の心の優しさに響く作品を描き続けたい」
 第27回松井妙子染色画展は17~23日、松坂屋静岡店(静岡市葵区)で開かれる。

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