文化生活部 岡本妙
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横溝正史ミステリ&ホラー大賞 読者賞に書店員の荒川さん(富士)
第42回横溝正史ミステリ&ホラー大賞の読者賞に、富士市の書店「谷島屋富士店」勤務の荒川悠衛門(本名大塚竜太)さん(35)=同市=が書いた「めいとりず」が選ばれた。職場の支援に感謝し「大好きな本に囲まれ、創作に打ち込めた」と喜びを語った。 荒川さんが執筆を始めたのは29歳。「元々物語を作ることに興味があり、クリエーティブな分野に挑戦したかった」と、金融機関を退職した。執筆しながら働ける仕事を探していた1年半前、同店の求人を見つけた。 荒川さんの「創作活動を優先して働きたい」という希望に、柴田昌紀店長(41)は「応援したいと思った。地元作家を支えるのも書店の役目」と判断。荒川さんの担当業務
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チョウの成長を点描 昆虫画家・桃山さん 静岡で絵本の原画展
卵から生まれたイモムシが皮を脱いで、さなぎになって背中が割れて―。チョウの成長を観察する昆虫画家、桃山鈴子さん(三重県)の「へんしん―すがたをかえるイモムシ」(福音館書店)は、命の息吹を写し取ったかのような繊細な点描画が特徴。桃山さんは「子どものときに一番驚いたのが、イモムシの変身。その神秘を子どもたちに伝えられたら」と語る。原画展が29日まで、静岡市葵区鷹匠のひばりブックスで開かれている。 鮮やかな緑色に黒や白のまだら模様を付けたモンシロチョウのイモムシ。羽化したての羽は柔らかそう。ナミアゲハのさなぎが緑色から黄色と黒へ変わる様子の描写は、目の前で観察しているように錯覚する。 チョウの
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バッグ類、写真を生地に転写 沢井健二さん(静岡市)【ものづくりびと 県内作家の小さな工房】
庭先に植わるイモの葉に落ちた水滴、竜爪山で見たツバキ、タンザニアのシマウマ、マダガスカルのバオバブの木―。ポーチを彩るのは静岡市葵区でセレクトショップを経営する沢井健二さん(71)=同市清水区=が長年撮影してきた写真だ。 野生の草花や生き物が見せる美しい瞬間を捉えたショット。沢井さんは「バッグのために撮っているわけではない。当てはめてみたらうまく収まったものが大半」と話す。 実家の洋品店は同市の中心市街地に位置し、ファッションの最先端を見て育った。中学校の部活動で写真に夢中になった。大学卒業後に家業を担うも、休日は海へ山へ。「自然の色をたくさん目にしてきた。1羽の鳥を見ても白色の入り方、
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失敗糧に答え探し続けて 透明標本作家・冨田伊織さんインタビュー
硬骨を赤紫色、軟骨を青色に染色し、肉質は透明に―。特殊な手法で制作した魚類や両生類などの標本を、幻想的なアートとして発表する透明標本作家、冨田伊織さん(38)=神奈川県葉山町=。作品は小中学校の理科教科書で、生き物の骨格など体の構造を示す標本例として紹介され、現在は静岡市清水区の清水文化会館マリナートで「新世界『透明標本』展」を開催中。子ども時代、制作への思いを聞いた。 ―どんな子どもだったか。 「生まれ育ったのは埼玉県。釣り好きの父とよく近所の川へ、時々海にも連れて行ってもらいました。魚や昆虫を捕って来ては飼い、ずーっと観察していた。少年野球チームにも入っていましたが、ボールを取りに
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詩×アート 春を表現 静岡でコラボレーション展【とんがりエンタ】
静岡市文化・クリエイティブ産業振興センター(CCC)の登録クリエーターによる、春をうたう詩とアート作品のコラボレーション展「Creation12×Poem12」が29日まで、同市葵区のCCCで開かれている。 詩人のたいいりょうさん(49)=静岡市=が「桜」「しずおかの春」など春を題材に12編を詠み、その詩に着想を得て美術家や書家ら12人がそれぞれ作品を創作した。 美術史家でもあるたいいさんは「人間の尊厳や悲しみなど内面に迫る詩は、美術表現にも通じる」と語る。詩「炎のように」から、造形家の白砂勝敏さん(49)=富士宮市=は、油絵の具と星砂を混ぜ、カラフルな渦を描いた作品「現と潜
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かんなみ仏の里美術館「阿弥陀如来及両脇侍像」 鎌倉時代 実慶作【美と快と-収蔵品物語㉒】
箱根の南麓、静かな里山風景が続く函南町桑原地区。平安時代は箱根権現の神領に属し、平安時代から江戸時代までの仏像24体が地元の人々によって守り継がれてきた。中心となるのが阿弥陀如来及両脇侍[きょうじ]像(阿弥陀三尊像)と薬師如来坐[ざ]像。2012年4月には「かんなみ仏の里美術館」が開館し、町の美術品として展示されている。数々の苦難をくぐり抜けてきた道筋は、あつい信仰心に支えられた歴史でもある。 ■守り継ぐ信仰の文化 「阿弥陀如来及両脇侍像」 木造 鎌倉時代 実慶作 展示室の奥に座す阿弥陀如来は、玉眼の強いまなざしが前方を見つめる。脇侍を含め三尊の像内には「実慶」の銘がある。実慶は、鎌倉
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アワーフェスティバル開幕 静岡市葵区、演劇や参加型企画など
演劇や大道芸などパフォーミングアーツの祭典「OUR FESTIVAL(アワー フェスティバル) SHIZUOKA2022」(静岡市文化・クリエイティブ産業振興センター主催)が11日、同市葵区七間町とその周辺で始まった。入場無料。主要な公演やイベントは12、13日に行われる。 同フェスティバルは、17年から開かれてきた「七間町ハプニング」をリニューアルした。演劇公演の一つ、岸田国士作「驟雨(しゅうう)」は、公募で選ばれた同市出身の大学生浜吉清太朗さん(20)=東京都=が演出を務める。地元で初演出する浜吉さんは「大正時代の戯曲。男女の性差が生む問題について現代の尺度で迫りたい」と意欲を語った。
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墨汁画 にじむ笑い 伊藤千史さん(富士宮)初の作品集
ふんどし姿の侍をはじめ、動物たちのユーモラスな墨絵漫画を描き、墨汁画家を名乗る伊藤千史さん(56)=富士宮市=の初作品集「ねこおち」が12日、子鹿社(伊東市)から発売される。 伊藤さんは15年前にイラストの下描きとして墨汁を使い始め、10年前からは毎日、ツイッターで作品を発表してきた。緩急のある墨線で描かれた「ふんどしのおじさん」は人気キャラクターに。異世界の生き物たちも登場し、こっけいなやりとりの末に猫が涼やかな表情で落ちを付ける。「16編を厳選した。笑い転げてもらえたらうれしい」と話す。 書籍は2021年設立の子鹿社にとっても初の出版物。「漫画の余白が俳句のように感じた」という編集担
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型染め 懐かしい光景、ポップに 大石彩乃さん(静岡市駿河区)【ものづくりびと 県内作家の小さな工房】
開けた袋からピーナツが飛び出す。カセットテープを鉛筆で巻き戻す。型染め作家、大石彩乃さん(32)=静岡市駿河区=が手掛ける手拭いは、日常生活のワンシーンや懐かしい光景がポップな色彩で切り取られている。 高校卒業後、ファッションデザインを学ぶため上京したが、アルバイト先で目にした染色の仕事に引かれた。「技を身に付けたい」と23歳で静岡に戻り、焼津市の藍染め職人桜井茂雄さんに弟子入りした。「完成度の高さを追求し、作る物に責任を持つ姿勢を学んだ」 独立して約1年半。「肉筆で描く線はまだまだ未熟。型を彫る工程が加わることで、頭の中が整理され、余分な線をそぎ落とせる」。伝統工芸だが、図案のデフォル
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人を穏やかにする温かな食べ物【こち女ボイス】
最近、煮干しの内臓取りにはまっています。頭をそっと引き抜いて、内臓が付いてくればラッキー。胴体を割ってポロッと外れる瞬間もうれしいです。煮干しのだしは手軽で、素朴な風味が気に入っています。記憶をたどれば、子どもの頃の、煮干しがそのまま入ったみそ汁に行き着くでしょうか。 「食べ物とは思い出のこと」。静岡市出身でセルビア在住の詩人、山崎佳代子さんが語っていました。1990年代の内戦で故郷を追われた難民たちから、食べ物を手掛かりに聞き書きした記録を「パンと野いちご」(勁草[けいそう]書房刊)にまとめています。 悲惨な証言に、いたたまれなくなること度々。その中で、食べ物にまつわるエピソードは、人
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静岡市の街中に“文学喫茶” 獣医師夫妻、愛蔵書1500冊
1500冊の本に囲まれた喫茶店「電気読書座」が、静岡市葵区鷹匠にオープンした。清水区で動物病院を開業する獣医師の望月敬太さん(32)、杏さん(33)夫妻が「本は生活の一部。ゆったりと文学に触れられる拠点に、街中のにぎわいにもつながれば」と思いを込めた空間だ。 本棚に並ぶのは、敬太さんが学生時代から親しんできた愛蔵書。太宰治や坂口安吾、村上春樹、近年のベストセラー小説を中心に、エッセーや旅行ガイド、漫画も並ぶ。静鉄沿線のビル2階、30平方メートルほどだが、観葉植物とアンティーク家具、月替わりのコーヒーが落ち着いた読書時間を提供している。 店名の「電気」は、敬太さんが以前飼っていたウサギの名
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タティングレース 輪つなぎ繊細な美 小林真梨子さん(静岡市葵区)【ものづくりびと 県内作家の小さな工房】
小花のブーケか、雪の結晶だろうか。タティングレースは、シャトルと呼ばれる舟形の小さな糸巻きから生み出される繊細な模様が美しい。「一目ずつ糸を結んでつなげていく。数ミリの輪から自在に模様を広げられる」と、小林真梨子さん(31)=静岡市葵区=は語る。目にも留まらぬ速さで、指先の木綿糸を交差させていく。時折、糸巻きから糸を引き出す音がカチッカチッと心地よく響く。 もともと手芸好き。大学生のとき、アルバイト先の手芸店でタティングレースのテキスト本を置くことになった。「見本も作ってみて」と頼まれたのが始まりだ。 タティングはヨーロッパの王室で女性たちに親しまれたレース編みという。基本を身に付けてか
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赤ちゃん寝相アートセット 子育て団体に寄贈 駿河総合高生、余り布で作成
駿河総合高(静岡市駿河区)の3年生31人が24日、家庭科実習の余り布で作った「寝相アート」用のマットと小物類を、同区の地域子育て支援センター「よしよし」(末吉喜恵代表)に寄贈した。生徒たちは触り心地を工夫し、持続可能な開発目標(SDGs)の視点も取り入れ、赤ちゃんにも地球にも優しく仕上げた。 余り布を使った制作は2年目。寝ている赤ちゃんの周りを飾って撮影する寝相アートが子育て世代に人気があり、今年は末吉さんの依頼を受けて節分、イースター、生後半年のお祝い、七夕、海水浴の5種を用意した。赤ちゃんが触れても痛くないよう縫い目に気を配り、写真映えを意識して随所に綿を入れて立体感を出した。 節分
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静岡人インタビュー「この人」 二宮奈緒子さん(静岡市駿河区) 静岡市内を拠点にアート活動を行う
特別支援学校、支援学級に通う子どもや卒業生が描いた絵や文字をデザイン化し、雑貨として発表している。グラフィックデザイナー。53歳。 ―活動のきっかけは。 「発達障害のある長男の周りには文字を書くことが好きな子、絵を描くことが得意な子がいる。8年前、皿やTシャツにしてみたら面白くて作品展を開いた。商品化の声を掛けられ、雑貨として販売を始めた」 ―自身の長男が発する言葉を集めたカレンダーや箱の作品もユニーク。 「主治医に『記録したら』と言われたのが始まり。『ぎこちいい』『まとまりきらないほど人生はいい』など、日本語としては間違っているのに、じんわり伝わってくる。けんかの最中の言葉は特に秀
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現場貫き空間に奥行き 洋画家・西谷之男さん(吉田町)
デッサンから仕上げまで、全て現場で―。洋画家の西谷之男さん(63)=吉田町=が見つめる先には、こんもりとした林から茶畑、富士山へと景色が広がっていく。写実を志して40年余り。「日の当たり方、陰影は刻々と変化する。見た実感のまま筆を動かしたい。空間の奥行きは、その場でないと出せない」と話す。中央画壇に出す100号も、実景を前にイーゼルを立てる。 高校卒業後、県西部の部品メーカーに就職したが、小さい頃から好きだった絵を諦めきれず、20歳で東京の絵画専門学校へ進学。やがて絵画講師を務めながら、公園の風景を描くようになった。生命力あふれる大木と、下草や木漏れ日の美しい対比。「個性に乏しいとされる緑
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記者コラム「清流」 アフリカに渡った蘭字
アラブの王族を思わせる優雅な男性、星と月、チェス盤―。戦後、清水港から北アフリカへ輸出された茶箱のラベルは、見慣れたお茶のパッケージデザインとはかけ離れていた。日本らしさはなく、赤や黄の色調、強い輪郭線が目を引く。 フェルケール博物館(清水区)が収蔵する茶箱のラベル「蘭字」は、明治時代からの静岡茶輸出の変遷を伝える。需要が減速した米国から、なぜ北アフリカへ。ミントティーを飲む習慣があり、緑茶が似ていたのでは、とのこと。デザインの変更を書き込んだ指示書、船便で往復した封筒も残されている。 現地の人々を引き付けた意匠は今も鮮やか。静岡とアフリカを行き交った70年前の光景に、いっそう想像が膨ら
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話題作「墓場、女子高生」上演 静岡県内の演劇集団「U―go」
女子高校生のリアルな心の機微を描く話題作「墓場、女子高生」を、静岡県内の演劇集団「U―go」(草野冴月代表)が第1回公演として22、23日、静岡市葵区のMIRAIEリアンで上演する。中学生から大学生までの11人が、自身が抱える思いを重ねながら稽古に励む。 舞台は学校の裏山にある墓場。合唱部員たちが授業をサボっては遊ぶ。ヒステリックな教師、疲れたサラリーマン、妖怪や幽霊もやって来て-。騒動を起こしながらも、亡くなった友達、日野陽子への思いを募らせる。 「U―go」は、女性演劇集団HORIZON(同市)を率いる草野代表が、この作品の上演を掲げて参加者を募った。演出の草野代表は「新型コロナウイ
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フェルケール博物館 「輸出用茶箱蘭字」(戦後) イスラム風に絵柄変化【美と快と-収蔵品物語⑱】
江戸時代末期に日本茶の輸出が始まると、「蘭字」と呼ばれた茶箱のラベルが日本の花鳥や風俗を描いた意匠で外国人の心を捉えた。フェルケール博物館(静岡市清水区)が2015年に飲料嗜好[しこう]品専門商社「エム・シー・フーズ」(東京)から寄贈を受けた第2次世界大戦後の蘭字は、アラブやアフリカ地域を連想させる絵柄が中心。品質保証を示す蘭字のデザインをひもとくと、日本茶輸出の変遷をたどることができる。 1952年制作の印が残る「シェへラザード(千夜一夜物語)」は、エキゾチックな雰囲気が漂う。ただ、裸婦の顔立ちはどこか日本人風。「海外から送られてきた見本は顔の彫りが深い女性だった。日本で版を起こす際、読
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おしゃれに迎春準備 花飾りやしめ飾り
今年も終わりに近づき慌ただしい毎日だが、せっかくの迎春準備を「いつもとは違う」「ちょっとおしゃれ」に楽しんでみたい。正月の席にも合う洋花を取り入れた花あしらいを生花デザイナーに提案してもらった。さまざまなしめ飾りが人気の女性2人組には、しめ飾りに込めた思いを聞いた。 ■花飾り 好きな切り花浮かべて 生花デザイナーの鈴木麻紀子さん 正月用の花飾りと聞くと、決まり事がありそう。浜松市内でフラワーデザイン教室を主宰する鈴木麻紀子さんは「和の花や器をアクセントに、自分の好きな花を選びましょう」とアドバイスする。 花の種類 初心者には、茎を短くカットした切り花を、水を張った器に浮かべるアレ
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伊豆の旅すごろくで 伊東の書店が商品化 絵本作家いわいさん制作
「100かいだてのいえ」シリーズで知られる絵本作家いわいとしおさん(59)=伊東市=が描いた「いずのペンギンさんちすごろく」を、同市の書店「サガミヤ」が商品化した。愛らしいタッチで描かれたペンギンの親子が伊豆半島の名所を一周する趣向で、沼田健社長(52)は「家族が集まる年末年始に楽しんでほしい。伊豆観光の活性化にもつながれば」と期待する。 新型コロナウイルス禍で在宅時間が増える中、家族一緒に遊べるゲームとして開発した。升目に描かれた伊豆の風景は、スタート地点の熱海、大室山、石廊崎、韮山反射炉など約60地点。いわいさんは「海も山も近く、自然の豊かさに触発された」と振り返る。成績はゴール順だ