テーマ : 美術・絵画・写真

「楢山節考」(1958年) 逃げ場のない閉鎖性 「木下惠介」編①【アートのほそ道】

 木下惠介の監督デビュー80年目の特別展「木下惠介と111のキーワード」(9月16日から)を準備しながら、改めて木下映画の魅力を考えました。生涯制作した49本の映画は、「ヒューマニズム」「反戦」「家族愛」などのキーワードで語られますが、京都大の木下千花教授が言うように「木下作品の魅力とは、そのシニシズム、皮肉にケレン味、簡単に言えばイジワルさ」(『KEISUKE』木下惠介記念館2011年発行より)と私も感じます。

「楢山節考」Blu-ray、DVD、デジタル配信中 発売・販売元:松竹(c)1958松竹株式会社
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 作家長部日出雄が「天才監督」と表現したように、惠介は「遊ぶように映画を作った」と言っています。創作の悩みを微塵[みじん]も感じない挑戦的な映画作りで傑作を次々に生み出し、「バカと愚図[ぐず]が大嫌い」と言い切った惠介は、盟友黒澤明とは異なるまなざしで映画を通して社会を見ていたと思います。
 惠介の映画は全てDVD化され視聴可能ですが、その中から「反戦」「社会派」「家族」「クィア」をキーワードに4本の作品を順次紹介します。
 初回は「家族」をテーマにした「楢山節考」(1958年)です。この映画では、因習と貧困を希望のない展開で描き、映像の様式美がさらに逃げ場のない閉鎖性を強調しています。
 「母より立派な女には会ったことがない」という母思いの惠介が、主演の田中絹代に「早く山に入りたい」と姥捨[うばすて]を急[せ]かす老母を演じさせる時、ためらう息子の心象表現には浄瑠璃と歌舞伎様式が必然だったように思えます。当時49歳の田中絹代は老婆を演じるために前歯を抜いたそうです。映画の中でも健常を嘆いて自ら歯を折るシーンがありますが、その後ろ姿には扮装[ふんそう]では隠せないエロチシズムを感じます。
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 木下惠介記念館(浜松市中区)の村松厚館長が、監督デビュー80周年の木下惠介氏の作品を読み解きます。
  photo01  むらまつ・あつし 1952年、浜松市生まれ。ヤマハ入社後、スウェーデン、デンマーク、オランダ、ドイツに通算10年駐在。2012年に定年退職後、静岡文化芸術大大学院で文化政策修士取得。浜松市鴨江アートセンター館長なども兼務する。

 

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