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フェルケール博物館 「寄木の手紙箱(レターボックス)」 江戸~明治時代の清水港 栄えた木材産業【コレクションから⑧】

 この箱はケヤキや黒柿を使った乱寄木[らんよせぎ]の中に小さな寄木が象嵌[ぞうがん]され、合わせ口は金覆輪の印籠蓋[いんろうぶた]となっている。蓋の中心には縁起の良い扇と「福」の字が据えられ、表裏を朱と砥粉[とのこ]色に塗り分けられた落とし蓋も付いている。

フェルケール博物館 「寄木の手紙箱(レターボックス)」 江戸~明治時代
フェルケール博物館 「寄木の手紙箱(レターボックス)」 江戸~明治時代

 現在、寄木細工は箱根の伝統産業として知られているが、その箱根では駿府の細工職人の娘が嫁に来て技術を伝えたのが始まりと説明されている。駿府には、明和元(1764)年に呉服町の土佐屋塗物店の小沢久七が漆器を携えて長崎に赴き、オランダ人に販売した記録が残る。また、彼らの注文を持ち帰り、日本にはなじみのない種類の漆器の制作も始めたという。この注文の中に手紙箱も含まれていたらしいが、この資料がそれに類するものであろう。
 江戸時代には南アルプスの森林地帯から切り出された材木は川を下り、清水湊[みなと]や福田湊に集積されて江戸や各地に運ばれた。そのため港周辺には木材産業が発展していくことになった。駿府の漆器は木材と職人が結びついた産業だったが、清水港に集積される木材が北洋材、南洋材へと変わり、次第に木材や漆器も合板やプラスチックに駆逐されていった。
 この寄木の手紙箱はイギリスから帰郷したもので、静岡と清水港の産業と流通の一時代を語っている。
 (椿原靖弘・学芸部長)

 ■メモ 
 静岡市清水区港町2の8の11<電054(352)8060> 
「寄木の手紙箱」は清水港発展の歴史を紹介する常設展で展示中。

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