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ツバメの飛来、今年は早い? 「初見」平年は4月3日【NEXT特捜隊】

 読者から寄せられた疑問に答える静岡新聞社「NEXT特捜隊」に、磐田市の70代男性から「自宅近くで3月19日にツバメを見かけた。今年は飛来が早いのでは」との声が届いた。そう言えば、以前は気象台や測候所が「ツバメの初見日」を観測していたような-。現状について調べてみた。

建物の電灯の上で羽を休めるツバメ=4月12日、掛川市の道の駅掛川
建物の電灯の上で羽を休めるツバメ=4月12日、掛川市の道の駅掛川

 ツバメの初見日は、1953年から2020年まで桜の開花日などと同じ気象庁の「生物季節観測」の項目の一つだった。毎年、職員が気象台や測候所の構内もしくは周辺でツバメを初めて見かけた日を記録してきたという。県内は静岡市分が20年、浜松市分は05年までの記録が残っている。

2020年まで気象庁観測
 静岡市で最も初見日が早かったのは1981年の3月16日で、遅かったのは76年の4月25日。91年から2020年までの平年値は4月3日。日本野鳥の会静岡支部によると、ツバメの観測は人の目が頼りのため、実際は記録上の初見日よりも早い時期に飛来したとみられる年が多いという。  

 
   
 気象庁は21年分から生物季節観測の対象を大幅に縮小し、梅や桜の開花日、イチョウの黄葉日など植物6種の9現象だけに絞った。理由について同庁は「生態環境の変化で植物の標本木や動物の発見が難しくなった」点を挙げる。ただ、同観測は約70年にわたって季節の移ろいを記録してきた。気象観測や自然保護の関係者からは気候変化などを確認する上で貴重なデータとして「観測の中断は避けるべき」との声が出ていた。

記録継続へ新枠組み
 こうした意見なども踏まえ、気象庁と環境省、国立環境研究所(茨城県つくば市)は21年度から、新たな枠組みでの観測を試行している。柱となるのが、同研究所を中心に市民調査員と連携して観測する「生物季節モニタリング」。静岡県内では公募に応じた5人が参加している。開始以来、全国で動植物計34種36現象の開花や初見日などの記録が報告されていて、本県のツバメの初見日は21年が3月27日、22年は3月20日、23年は4月9日だった。こうした記録と併せて考えると、3月19日の「初見」は比較的早いと言えそうだ。
 同研究所は3~5年の試行期間中に観測項目や調査方法を調整し、気象庁の過去のデータと比較可能な観測体制の構築を目指す方針。同研究所気候変動適応センターの辻本翔平特別研究員(34)は「約70年の記録を生かしつつ、将来にわたって長く広く続けられる観測ネットワークを構築したい」と語る。(生活報道部・草茅出)

越冬地と数千キロを行き来
 ツバメは春から夏にかけて北海道から九州までの各地で巣作りや子育てをする「夏鳥」。人の暮らしに身近な存在として知られるが、実際はどのような生態なのか。日本野鳥の会(東京)に聞いた。
 ツバメは全長約17センチ。春先に日本へ飛来すると泥や枯れ草を材料に住宅や商店、公共施設の軒先におわん型の巣を作る。人家などに営巣するのは、天敵のカラスなどに襲われるのを防ぐため。1度に産む卵は3~7個ほど。夏までに2回子育てをする場合もある。餌はトンボやユスリカなどの昆虫で、空中を飛び回って捕らえる。  
 
   
 子育ての時期が終わると一定期間を水辺のヨシ原などのねぐらに集まって過ごし、8月から10月ごろになると越冬地となる東南アジア方面へ飛び立つ。1羽が旅する距離は年間で数千キロにも及ぶ。一部は海を渡らず、日本の温暖な地域で越冬するという。国内では一般的なツバメに加え、リュウキュウツバメ、コシアカツバメ、イワツバメなどが生息している。
 環境省が2004年に公表した自然環境保全基礎調査によると、1997~2000年に確認された全国のツバメの繁殖は1974~78年の調査に比べて減る傾向にある。同会は、餌や巣の材料を豊富に確保できる水田や里山の減少、軒がなく壁面に巣を作りにくい西洋風家屋の普及などが主な要因とみている。
 同会は「消えゆくツバメをまもろう」と題し、啓発リーフレットの配布やふんの簡単な片付け方の紹介、市民参加型の調査などに取り組んでいる。同会自然保護室の山本裕チーフは「ツバメは人と自然の共存の象徴。温かく見守ってくれる人を増やし、いつまでもツバメが日本で子育てできる社会の実現を目指したい」と言葉に力を込める。

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