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1歳、2歳の子どもが魚をさばく? 藤枝「食農体験型保育」の現場に潜入【NEXT特捜隊】

 1歳や2歳の子どもが包丁で魚をさばいたり、鶏を絞めたりする保育園が藤枝市にあるとの情報が、静岡新聞社の「NEXT特捜隊」に寄せられた。園のブログをのぞくと、掲げているのは「食農体験型保育」の実践。5月に子どもが生まれたばかりの記者が園を訪ねた。

タチウオのはらわたを確認する園児=6月下旬、藤枝市の風の子の家
タチウオのはらわたを確認する園児=6月下旬、藤枝市の風の子の家
包丁でタチウオをさばく子どもたち=6月下旬、藤枝市の風の子の家
包丁でタチウオをさばく子どもたち=6月下旬、藤枝市の風の子の家
この日の昼ご飯。園児は、骨が多いタチウオを器用にたいらげた=6月下旬、藤枝市の風の子の家
この日の昼ご飯。園児は、骨が多いタチウオを器用にたいらげた=6月下旬、藤枝市の風の子の家
タチウオのはらわたを確認する園児=6月下旬、藤枝市の風の子の家
包丁でタチウオをさばく子どもたち=6月下旬、藤枝市の風の子の家
この日の昼ご飯。園児は、骨が多いタチウオを器用にたいらげた=6月下旬、藤枝市の風の子の家

 子ども用に低くつくられた調理台で、引地寛大郎君(2)が包丁を構えた。まな板の上にあるのは、引地君の身長ぐらいの大きさのタチウオ。保育士に手伝ってもらいながら身を切り分け、はらわたを取り出す。2歳児らしいあどけない顔立ちだが、魚に向き合うまなざしには真剣さがみなぎった。
 引地君ら園児が手分けしてさばいたタチウオは、保育士が調理し、この日の昼食に。小骨が多く、大人でも苦手な人の多い魚だが、どの子も器用に食べていた。「自分が口にする食べ物はどういう過程でつくられているのか、体験として知ってほしかった」。園の設立者で保育士の沢口道さん(72)が狙いを説明した。
 藤枝市岡部町三輪の保育園「風の子の家」は、民家の一角を借りて運営している。本年度は1~5歳児の13人が通う。周囲に田畑や里山が広がり、保育ではこの自然環境をフル活用する。園児は住民の協力を得てタケノコを掘り、米作りや静岡名産のお茶作りに年間を通じて携わる。
 園内の小屋で飼う鶏を解体したときの写真を見せてもらった。「1羽から取れる肉はとても少ない。それを知れば、普段なにげなく口にしている鶏の唐揚げも粗末にできなくなる」と沢口さん。「自然や生き物にとことん向き合い、心のひだを増やす。それが人生の困難に立ち向かう力になる」
 理念には記者も共感したが、けがの危険は多そう。保護者はどう思っているのか、後日再び園を訪ねて聞いた。2児を通わせる滝村美紀さん(40)=藤枝市=は、子どもがのこぎりで手を切ることもあったが、「一度けがをしたら覚える」とあまり気にしていなかった。それよりも「園に入る前は、汚いと言って砂も触らなかった。今は何事も自発的に取り組む。強い子になった」と、わが子の成長ぶりに感謝していた。

 ■食農保育 子どもの学び、支える力に
 幼児期の食育に詳しいNPO法人こどもの森理事長で管理栄養士の吉田隆子さん(磐田市)は食農保育の意義について「自分で育てた食べ物を口にすることは、子どもの好奇心を育てることにつながる」と指摘する。子どもは豊かな自然体験によって、知る過程や学ぶ過程を楽しめるようになる。これが、小学校に入って以降の学びの動機づけを支えるという。
 県内では、4月に開園した浜松市北区都田町の保育園「れんりの子」が、敷地内にある農園を活用した食農保育に取り組む。自然体験や食育の重要性は、2018年に改訂された国の保育所保育指針や、食育推進基本計画でもうたわれている。しかし、保育人材が不足する中、食農保育は衛生面や安全面の管理が難しいとして十分に広がっていない。吉田さんは「女性の社会進出と保育士の待遇改善、幼児期の食育はセットで進めるべきだ」と、国の支援の必要性を訴える。
 (TEAM NEXT編集委員・尾原崇也)

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