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中学校制服の値段が高い 静岡県内の現状は?【NEXT特捜隊】

 読者から寄せられた疑問に応える静岡新聞社「NEXT特捜隊」に、2人の子どもを育てる浜松市中央区の母親(46)から公立中学校の制服に関する質問が届いた。女性は「登校時しか制服を着ておらず、値段も高い」といい、「制服の価格について調べてほしい」と依頼を寄せた。材料費高騰などで物価が上昇する中、学用品をそろえる保護者の私費負担の増加も深刻だ。静岡県内の現状について取材した。(デジタル編集部・金沢元気)
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買い取り点数は予想以上だったと話す金原周平社長=12日、磐田市の制服リユース専門店「リパラーレ」
 静岡県内の公立中学校の制服は、男子が詰め襟の学生服にズボン、女子がセーラー服にスカートが一般的だ。複数の制服販売店によると、価格は各学校で異なるが、上下合わせて約4万~6万円かかるという。さらに夏用のシャツやズボン、スカートなどの追加購入や、入学時に学校指定の体育着、ジャージー、リボンなどをそろえる場合も少なくない。仮に全て新品で買うと、指定用品だけで計8万円を超える出費が想定され、生活保護受給世帯に支給される「入学準備金」の上限8万1000円(2023年度)を上回る可能性もあるという。近年はメーカー仕入れ価格が上昇し、販売価格を1割程度上げる店も増える見通しだ。
 >>地域で異なる事情
 家計の負担を抑えるために中古品を格安で購入したり、不要になった制服を譲り受けたりするリユースの動きが県内でも広がる。専門店やNPO法人による販売や、PTAやボランティアが主催するバザーで提供されるケースなど、地域によって事情が異なる。
 昨夏、磐田市見付にオープンした制服リユース専門店「リパラーレ」。市内の中学や高校を中心に学生服や通学用バッグなどを買い取り、必要な修繕やクリーニングを行った上で新品の約6~7割の価格で販売する。これまでに持ち込まれた学用品は数千点に上り、運営会社の金原周平社長(44)は「予想以上の反響で、傷んでいない品々も多い。SDGs(持続可能な開発目標)の推進にもつながる」と手応えを口にする。
 浜松市中央区の高台中学校区で活動するボランティア団体「高台ワピ」が6年前から取り組むのが「高中制服バンク」。卒業生から寄せられた制服を集め、進学する小学6年生とその保護者らに向けて販売する。管理運営費として1点100~400円を支払っても、制服一式で4000円以内に収まるよう値付けされている。最近は近隣学校からの問い合わせも多いという。創設者の夏目はるなさん(47)は「学校区単位の活動として続けるには限界がある。市や県全体で取り組めるシステムや制度が必要」と訴える。
卒業生が寄贈した制服を回収する夏目はるなさん=10日、浜松市中央区
 教委や学校が制服自体を見直し、結果として価格が下がる場合もある。袋井市は4月から、市内の複数の中学校で同じ制服を採用した。リパラーレの金原社長によると、利用者増加による大量生産で安価になる品目があるほか、デザインをセーラー服からブレザーに変えたことなどで女子生徒の価格は1万円以上下がった。学校間で制服の価格差がなくなり、市内での転校時には制服の買い替えが不要というメリットもある。
 調査結果を質問者に伝えると「新入生の保護者が本当に知りたい制服の情報は届いていない」と指摘し、「制服自体の必要性も含めて、多くの人に改めて考えてほしい」と話した。
選択制、学校や市町単位で進む 自由に組み合わせた制服を着る生徒=14日、裾野市立西中
 制服のジェンダーレス導入の流れや機能性向上の観点から、県内ではスカートやスラックスなどの制服を自由に選択できる仕組みの導入が学校や市町単位で広がっている。
 2019年に藤枝市立青島中が「7アイテムから自由に組み合わせられる」制服を学校単位で採用。23年度には裾野市内の複数の中学校で「同じデザインの制服の中から、自由に組み合わせることができる」仕組みを自治体単位で導入した。24年度から掛川市や袋井市で同様の運用が始まる。
 裾野市教委などによると、季節による寒暖差の大きい同市では、制服を自由に選択できることに対して生徒や保護者から肯定的な意見が多いという。教育現場からは「主体性が育まれている」との声もあるという。
 新たな制服の導入に携わった裾野市立西中の佐野充洋校長は「少子化などで将来、学校再編があったとしても柔軟に対応できる。生徒や保護者の意見を基に少しずつ改善していきたい」と話す。
「生徒や保護者の意見尊重し改革を」
加藤靖氏(藤枝・青島中元校長 元静岡大特任教授)
 校長の立場で藤枝市立青島中の制服改革に取り組んだ加藤靖氏(64)=元静岡大教職センター特任教授=に、制服の見直しの考え方や要点について聞いた。
加藤靖氏
 制服改革は生徒自らが判断し、行動する力を育む教材となる。制服を数十年間変えていない学校も多いが、近年の気温上昇やジェンダーにとらわれない流れから、新しい時代に合った制服を生徒や保護者の意見を尊重し進めてほしい。
 青島中では寒暖差に対応できないという訴えや、男女別制服に対する苦痛の声を機に取り組んだ。歴代のPTA会長や自治会長ら80人に意図を直接説明し、全員の賛同を得た。生徒が周囲を気にせず制服を選べるよう、保護者や職員、販売店に多様性の尊重は生きやすさにつながると繰り返し説明した。
 改革の経験から①保護者や生徒の意見を尊重するデザイン②数年の移行期間を設ける③メーカーの自由競争を促す「各社縫製方式」の導入―が重要だと思う。全生徒が主体的に制服を着られるようにするには、保護者はもちろん、地域の大人の理解や協力も必要だ。

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