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入学前の「和式トイレのトレーニング」に戸惑い【NEXT特捜隊】

 この春から小学校に入る子どもを育てる静岡市駿河区の40代会社員女性から、読者の困り事を調べる「NEXT特捜隊」にお悩みの声が届いた。「入学前に学校から『和式トイレのトレーニングが必要』と説明されたが、普段使わないので戸惑っています」。そう言われると、以前と比べ和式トイレを目にすることは一般家庭はもちろん、公共施設でも少なくなった。しかし、県内の公立小中学校の事情を取材すると、全体的にはトイレの洋式化が進むものの、今も約4割は和式で、自治体ごとの状況に差があることが分かった。

洋式化 自治体間で差 小中の洋式58・9%
 

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 主に自治体などの学校設置者に対し、2月1日時点における洋式化の状況を聞いた。県内の公立小中学校の敷地には児童や生徒が日常的に使っている便器が4万595個(小便器を除く)あり、このうち洋式は2万3928個だった。洋式便器率は58.9%。文部科学省による2020年の直近調査よりもおよそ6%高いが、当時の全国の傾向と同じく約4割は和式便器だ。
 設置者別で洋式化率が最も高かったのは吉田町(94.1%)。静岡県(89.2%)や函南町(88.9%)など7設置者は8割を超えた。逆に、最も低かったのは対象が1校の御前崎市牧之原市学校組合(24.0%)で、自治体では磐田市(37.1%)が最も進んでいなかった。富士宮市(45.0%)や西伊豆町(46.3%)など7設置者は5割を下回っていて、地域ごとに大きな開きがあった。
 9割超が洋式トイレという吉田町の教育委員会によると、17年度から小中学校の快適な教育環境の整備を推進し、照明のLED化やエアコン整備などと並行して改修した。「若い世帯に向けた人口減対策も視野に、町を挙げて教育面の充実を図った」(担当者)と振り返る。
 一方、3割台だった磐田市教委は昨年度までに、学校施設のトイレ1カ所に最低一つの洋式便器を整備する事業を完了したと説明する。担当者は「改修を求める要望に応えて進めてきた認識」とした上で、今後はトイレ全体をリフォームする方針を示したが、「金額が大きくなるので完了の見通しはたたない」と先行きの不透明さを口にした。
 投稿者の女性が住む静岡市は人口規模が大きく、便器数が7349個と県内では浜松市に次いで多いものの、洋式化率は平均以上の61.5%だった。静岡市では教育環境づくりの一つとして、10年から「トイレリフレッシュ事業」を進める。同市教委によると、23年度には事業に着手できていない学校がゼロになるとしながらも、担当者は「目標は100%洋式化。少しでも早く達成したいが、今のペースだと完了までは十数年必要になる」と打ち明ける。

 ■「排せつ我慢 心配」
 女性の子どもが通う予定の小学校にも足を運び、状況を聞いた。校長によると、校内の改修は児童にとって危険な箇所を優先していると説明。1年生が主に学ぶ校舎は和式トイレが多く残っているため「保護者に事前に現状を伝えて(トレーニングの)協力をお願いしている」と話す。入学後は特別なカリキュラムを通じ、子どもたちが安心・安全に学べるようにトイレの使い方を含めて指導しているという。
 内閣官房は国土強靱化(きょうじんか)の一環として、公立小中学校のトイレの95%洋式化を25年度までの中長期目標に掲げ、文部科学省は各設置者の整備方針に応じて予算確保を進めている。
 県内の現状などを投稿した女性に伝えると「日常生活でほとんど接点がなくなった和式トイレが、今も多くの地域の小中学校に残っているとは。昭和の時代のよう」と驚きを隠さなかった。「先生や学校が気にかけてくれるのはありがたいが、小学生になれば排せつを我慢できるようになるので、和式トイレに行かずに体調が悪くならないか心配。新型コロナなど感染症の問題もあるので、早く洋式化が進んでほしい」と切望した。

明るく清潔、安心得る場に 小学校洋式化県内一の小山町
 

photo03 明るく開放的な洋式トイレを掃除する児童ら。乾いた床をほうきなどで清掃する=3月上旬、小山町立成美小
 小山町の中心部、児童133人が通う町立成美小。築39年という校舎のトイレは2018年度までに、全て温水洗浄便座の洋式便器に改装した。内部もタイルから乾いた床に変えたため、上靴のまま使用できる。
 2階の女子トイレは児童数の減少に合わせ個室を半分の四つに減らしたため、スペースが広く開放的。ドアの色は青やピンク、黄、オレンジで彩られて明るい雰囲気だ。6年のハーティガン桃夏さん(12)は「掃除は便器周りをシートで拭き、床をはくだけ。簡単です」と笑顔を見せた。
 今回の調査で小学校(小中一貫校を含む)敷地内の便器の洋式化率が96.6%と最も高かった同町。13年度から整備を開始し、和式が中心だった便器をほぼ洋式に変えた。「清潔だし、使う時にしゃがまないからいい」と口をそろえるのは、6年の森涼稀君(12)と横山夢乃さん(12)。田中清子校長(55)は「子どもはもちろん、保護者や高齢者ら来校するさまざまな人が気持ちよく利用できてありがたい」と話す。
 洋式トイレの導入を強く提案したのは、町の前教育長天野文子さん(73)だ。「トイレと玄関をきれいにすると子どもの心が整う」が教員時代からの信条だったという天野さん。教育長に就任した直後に町内の小中学校を見て回り、声を上げた。「すぐにトイレを直しましょう」
 老朽化が進む校舎がある中でも町を説得し、大規模な改修時期を待たず優先的に洋式化を進めた。「子どもが和式に慣れてしまえば困らないから、トイレ改修の要望は低くなりがち。ただ、排せつこそ毎日の生活に欠かせない。トイレがきれいで安心できる場所になり、学習面にも良い影響があったと思います」と胸を張る。

 



バリアフリー化 県内46.9% 法改正も整備に遅れ

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 子どもたちの教育環境の向上や災害時の避難施設機能として、多くの公立小中学校で必要とされるバリアフリートイレ。文部科学省が昨年公表したデータによると、全国の校舎における設置率は7割超となる中、県内の2月1日現在の状況は46.9%にとどまり、整備の遅れや地域ごとのばらつきが目立つ。
 県内では御殿場市と東伊豆町、吉田町が既に校舎における整備を済ませた。一方、29の学校設置者は全国平均を下回り、そのうち計六つの自治体や学校組合では整備が全くできていない。
 2020年改正のバリアフリー法は、床面積2000平方メートル以上の公立小中学校を新築や増改築する際、バリアフリートイレの整備を義務付けた。既存の校舎も改正法の基準に合わせるよう努力義務を課し、文科省は25年度末までに避難所となる全ての公立小中全校での整備を目指す。
 同省の調査で、校舎のバリアフリートイレ整備率が33.6%と全国の政令市で最も低かった浜松市は「校舎の耐震化を優先してきたが、今後はバリアフリー対応など施設の大幅改修に入る」と説明。24年度末までに計画を策定するとともに、費用面では国が補助率を3分の1から2分の1に引き上げた制度を活用する意向を示した。


改修や機能向上なぜ遅れている? 予算の制約大きく、学校のトイレ研分析 photo03  

 学校のトイレ改修や機能向上はなぜ遅れているのか―。TOTOなどトイレ関連の企業6社でつくる「学校のトイレ研究会」(東京都)の冨岡千花子事務局長(51)は「40~50年前に建てられた校舎が多く、当時の公共施設は和式が主だった。今は学校でも洋式化が進んできているが、予算上の制約などを理由に自治体間で差が出ている」と分析する。
 冨岡事務局長によると、TOTOが現在出荷している大便器の99.7%は洋式。和式便器は2015年にJIS規格からも外れた。「和式が必要という声は少数ながらある」と前置きしつつも、「メリットは洋式の方が多い」と言い切る。
 和式便器はその形状から「排せつ物が外に飛び散りやすく、水で掃除した後の床は臭いを防ぐことが難しい。洋式と比べて衛生面で問題がある」と指摘。便器の周辺の床を調べると、和式は洋式の約160倍に相当する大腸菌が確認されたデータを紹介しながら「改装時にトイレのスペースに和式を一つでも残すと、感染症のリスクも残る」と強調する。
 洋式トイレで流す水量は1回当たり約6リットルで、和式のおよそ半分に抑えられるため「環境への配慮や維持費削減につながる」とも。ユニバーサルデザインや災害対応の観点からも、高齢者や障害者の利用が難しい和式と比べて洋式が有効だと説明する。

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