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「感染したくない」発想変えて 浜松医療センター・矢野邦夫医師が解説 新型コロナ5類移行・静岡新聞社アンケート【NEXT特捜隊】 

 新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類になるのに合わせて静岡新聞社「NEXT特捜隊」が実施したアンケート(回答者283人)では、ウイルスへの警戒感や感染対策に対する回答者ごとの認識の差が際立った。30年以上にわたりさまざまな感染症と向き合ってきた矢野邦夫・浜松医療センター感染症管理特別顧問に、新型コロナの現状と見通しを解説してもらうとともに、回答者から寄せられた主な質問に答える。

5類移行に伴う静岡県内医療体制などの変更点
5類移行に伴う静岡県内医療体制などの変更点
矢野邦夫さん
矢野邦夫さん
静岡県内オミクロン株感染者の死亡率、重症化率
静岡県内オミクロン株感染者の死亡率、重症化率
5類移行に伴う静岡県内医療体制などの変更点
矢野邦夫さん
静岡県内オミクロン株感染者の死亡率、重症化率

 3年前、新型コロナは誰もかかったことがなく免疫を持たない、ワクチンも治療薬もない「新型」でした。いまは違います。
 ウイルスは淘汰[とうた]されないよう変異を繰り返すもの。元々風邪ウイルスとして4種類のコロナが存在していますが、「新型」もそれらに近づきました。2022年1月ごろのオミクロン株流行以降は、高齢者を含む全世代で病原性(毒性)が低下し、症状は「風邪」といえるまでになりました。
 ただ、まだ「風邪ウイルス」とは言い切れません。あらゆる感染症が流行しやすい冬以外にも流行の波が来ているからです。国内ではすでに5割以上が感染したとみていますが、今後、より多くの国民が感染して免疫を持ち、季節外れの流行が収まると、「5番目の風邪コロナウイルス」になるでしょう。
 いま私は、重症化リスクのある人が出入りする病院内を除いてマスクを着けません。着けていると、さまざまな感染症にかかりにくくなってしまうので、あえて外しています。
 人は、さまざまな病原体にさらされる「暴露」を繰り返し受けることで体内の免疫を鍛え続けています。いわば「自然のワクチン」です。新型インフルエンザが流行した09年、重症化しやすいはずの高齢者がほとんど重症化しませんでした。子どもの時に、似た型のウイルスに暴露していたからと推定されています。逆に、数年間隔離病棟で生活した人が退院すると、さまざまなウイルスに感染しやすくなります。
 病原体に感染すれば自覚症状が出るとは限りません。従来の4種類のコロナを含め、皆知らぬ間にさまざまな病原体に繰り返し感染し、うつし合っています。重症化リスクのない人にとっては、感染症を防ぎ続けるよりも免疫を鍛えておく方が、長期的に見てメリットが大きいと考えます。
 中にははしかやポリオ(小児まひ)のように、感染を極力避けたい感染症もありますが、それらはすでにワクチンが普及し、全医療機関が発生動向を注視しています。日常生活で、そうした感染症にまでかかってしまうのではと心配しなくてもいいです。
 なお、新型コロナの重症化リスクがある人とは、おおむね70歳以上の寝たきりの高齢者と、術後やがん治療中などで免疫機能が著しく下がっている人です。基礎疾患があっても自力で外出できる状態なら、特別に重症化しやすいことはありません。
 どんな感染症でも、元気な人でもまれに重症化したり、罹患[りかん]後症状(後遺症)が残ったりすることがあります。「かかっても大丈夫」な感染症にかからないよう心を砕くよりも、かかって重症化の兆候が出たらすぐに受診し、適切な治療を受けること、それがかなう医療態勢を皆で維持することが大事です。

 やの・くにお 浜松医療センター感染症管理特別顧問兼浜松市感染症対策調整監。日本感染症学会の感染症専門医・指導医で、同学会評議員。県新型コロナウイルス感染症対策専門家会議委員も務める。

風邪症状で検査不要/マスクは外す 矢野医師、県の担当課が質問に回答 
 Q 風邪症状があっても検査せず、自己判断で自宅療養していい?
 A(矢野) はい。新型コロナに限らず、風邪症状が出たときに検査でウイルスを特定する必要はありません。大抵は休めば治ります。ただし何らかの病原体に感染しているので、症状が治まるまで学校や会社を休んでください。外出先でせきが出る時はマスクと手洗いをしましょう。
 Q 発熱したら一般の医療機関で診てもらえる?
 A(静岡県新型コロナ対策企画課) はい。県内の内科、耳鼻科、小児科を標ぼうする医療機関の大半が発熱患者を診療しています。引き続き県のウェブサイトで「発熱等診療医療機関の一覧」を公表しています。かかりつけ医がない人は、一覧の診療所にまず電話で相談してください。
 Q 飲み薬は処方される?
 A(矢野) はい。外来ではすでに3種類の抗ウイルス薬が処方されています。そのうち特にウイルス減少効果の強いゾコーバとパキロビッドパックは、飲み合わせに注意を要します。とはいえ服薬が必要なのは、症状の強い人や高齢で基礎疾患がある人など、感染者の一部です。
 Q 薬や治療の費用は?
 A(静岡県新型コロナ対策企画課) 例えばゾコーバは1治療当たり約5万円などと薬の価格は高いですが、それら3種類の飲み薬を含む7種類の治療薬の自己負担はありません。治療薬以外については原則として、他の疾病と同様に医療費の自己負担(1~3割)が発生します。ただし新型コロナで入院した場合は、最大2万円が軽減されます。治療薬と入院費の自己負担軽減は9月末まで。10月以降は未定です。
 Q コロナ後遺症の現状は?
 A(矢野) 明らかなのは、入院が必要になるなど症状が重かった人は、後遺症が残る確率が高い傾向があるということ。他の感染症罹患後も、頭にもやがかかるような「ブレーンフォグ」や倦怠[けんたい]感が起きうることは、臨床医の経験則で知られていましたが、詳しい研究は始まったばかり。現在は対症療法しかありません。新型コロナに罹患後、帯状疱疹[ほうしん]になりやすくなることは判明しています。リンパ球が減り、細胞の免疫機能が低下するから。しかしそれもコロナ特有ではありません。元気な若者でも大量の紫外線を浴びたり、徹夜が続いたりして体力を消耗すると、免疫機能が下がって帯状疱疹になることがあります。
 Q 子どものマスク、どう考えたら?
 A(矢野) 子どもは特にマスクを外すべきです。流行初期に中高年層が重症化したのは、自身の免疫機能が過剰に働いたことに起因しました。生後半年から少なくとも小学校低学年までは、その過剰免疫が起きにくい。だからこそ長い人生の中で、子どものうちにさまざまな感染症にかかっておくことが大切です。普段はマスクを外し、受験の前や、病気の治療後など、感染症を防ぐ必要がある時に着けるとよいでしょう。
 Q ワクチン接種は必要?
 A(矢野) 新型コロナワクチンの目的は、重症化する確率を下げること。あくまで任意です。世界保健機関(WHO)によると、接種から半年間は感染、発症しづらくなる効果も期待できます。私はすでに6回目を打ちました。特に70歳以上には接種を勧めます。
 Q ワクチン接種後の体調不良の発生状況は?
 A(静岡県新型コロナ対策推進課) 静岡県内では延べ1131万回の接種が行われました。医療機関から国に上がった新型コロナワクチン接種後の「副反応疑い報告」のうち、県内分は1062件(15日時点)です。
 (矢野) 副反応疑い報告は、接種後に起きた「良くないこと」を「ワクチンと関係があるかもしれない」として報告する仕組み。偶然起きた出来事も含まれています。2009年の新型インフルエンザ流行時にも、インフルエンザワクチン接種後の副反応疑い報告が増えました。接種と症状の因果関係の特定は容易ではありませんが、1件1件、できる限り精査していく必要があります。

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