伊豆田有希
いずた・ゆき 1983年、広島県福山市生まれ。中国新聞記者を経て2009年、家庭の事情で転職。社会部→島田支局→社会部→生活報道部。2男1女の子育て中。趣味は泳ぐこと。好きな言葉は「とらわれない」。より快適で理にかなった社会、誰もが生きやすい社会の実現に貢献したい。
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従来の物差し 転換を 演出家・宮城聰さん【アフターコロナへ 私の視点⑯完】
人が健やかに生きていくには、心の栄養が必要です。食料で生命を維持するだけでは、人間として生きていることにはならない。新型コロナ下は、物理的に他者と切り離される場面が増えました。ふと気付けば孤独の淵に立っていた-。そんな時、ある人にとっては劇場が、人間として生きるための命綱になるのだと気付きました。 観客だけでなく演劇人も、演劇がなければ生きたしかばねになる。流行初期から、俳優と観客1対1の電話による演劇を行いました。地球の全ての演劇人が、史上初めて同じ課題に直面していると思うと、高揚感が湧きましたね。 もしも世界中の人が、そんな想像上の連帯の鎖を感じたなら、国々が一丸になる契機となったは
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人の縁、安易に切らないで 住職・藤原東演さん【アフターコロナへ 私の視点⑮】
外出自粛などの感染対策をきっかけに、人付き合いの簡素化がいっそう進みましたね。例えば親の葬儀。「家族葬」っていかにもきれいな言葉だけど、それを使うと、故人に一目会って手を合わせたい人が来られなくなる。私は「家族葬という言葉を使いなさるな」と皆さんに言うんです。供養は質素でいい。お線香だけ上げてもらえばいい。あなたも故人の縁に生かされている。その縁を一方的に切ってはいけない、と。 大家族が主流だった時代は、死も生も身近でした。身内が亡くなる時はだんだん家が重苦しくなり、みんなで見送った。誕生の時は家が明るくなり、みんなで迎えた。しかし今は死も生も、病院や施設の中の出来事。最期をみとることもほ
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問われる 施設の在り方 国連や内閣府の委員を務めた全盲の社会学者石川准さん 【アフターコロナへ 私の視点⑭】
新型コロナウイルスの流行以来、施設で暮らす高齢者の面会は厳しく制限されています。90代の母がいた富山の施設では「県外の人は面会禁止」という期間が長く続きました。ようやく会えるようになっても、「面会者は接触禁止。体に触れたら2週間デイサービスに連れて行けない。入浴もできない」と。一方的で不合理な対応に、腹立たしさを覚えましたね。母の体力と認知力は急速に衰え、今春病院へ移りましたが、面会は今も原則月1回、10分です。 利用者と家族にとって筋の通らないことが起こるのは、医療福祉施設がもともと持つ特性ゆえです。多くの施設は、院長や施設長といったトップが実質1人で全ての意思決定を担う構造。管理責任
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能力生かせる社内環境に 社員の健康を支える産業医 赤津順一さん【アフターコロナへ 私の視点⑬】
パンデミック(世界的大流行)は、人々の働き方をがらっと変えました。特に会社員は、リモートを活用するのが一般的になりましたね。リモートは優れたツールで、さらなる活用が期待される半面、対面の機会が減るため、例えば上司が部下の不調に気付きにくくなるなど注意すべき点も見えてきました。社員の健康維持は、社員一人一人を大切にする企業風土があってこそ。社員も企業もそこに改めて目を向ける時かもしれません。 この3年は企業から、「うまく仕事が進まなくて困っている社員がいる」との相談が目立ちました。頻繁に顔を合わせていたら、「この人、今日は頭が痛そうだな」「昨日家で夫婦げんかをしたのかな」という具合に何となく
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産科医療 水準向上の契機に 国内外の周産期対応を調べた社会学者・白井千晶さん【アフターコロナへ 私の視点⑫】
日本の産科医療施設の新型コロナ対応は「ガラパゴス化」していました。父親さえ受診の付き添いや出産の立ち会い、母子との面会ができない。出産間近の妊婦が陽性になると、たとえ無症状でも、お産時のいきみを短縮するためとして帝王切開されたり、感染を防ぐためとして産後すぐ赤ちゃんと引き離されたりすることがありました。政府と学会の指針が、それらの対応を認めていたからです。 背景の一つは施設の構造上の問題でしょう。大半の施設は、健康な妊婦とその他の患者の動線が区切られていません。妊婦は複数の部屋を行き来して複数の医療者や患者と接するので、感染リスクを低くするため1人で出入りするよう求められたと考えられます
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生きがいある余生守る 高齢者の身元保証や葬送支援をする 石川真奈美さん【アフターコロナへ 私の視点⑪】
「この3年間、損したね。取り返さなくちゃ」。先日、私たちが支援している会員同士の交流会で、1人の女性がそう口にしました。高齢者は、体力、気力、健康状態がまちまち。他の世代と比べて、個人差が大きいです。高齢者は新型コロナウイルスに警戒するよう注意喚起され続けましたが、元気な人もそうでない人もひとくくりに捉えて一律に対面の機会をなくすと、かえって健康を損ないかねない。長いブランクを経た今、痛感しています。 以前は会員の居住地の近くを通れば立ち寄ったり、通院の付き添いの合間に食事したりすることもありました。そんなわずかな時間でも対面が減ると、途端に相手の様子や変化が分かりづらくなります。電話口
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新ビジネスの種つかもう 学生や社会人に「出会いの場」 静岡・葵区で毎月無料開催
静岡市葵区の人材交流拠点「市コ・クリエーションスペース」は6月から毎月学生や社会人が無料で参加できる交流会「MEET@(ミートアット)」を開く。同拠点は、異なる立場や分野の人たちが出会い、新しい価値を創造する場として市が2021年8月に開設した。交流会の定期開催は初めてとなる。 ミートアットは、今年4月から同拠点を受託運営するアトミカ(宮崎市)独自の対話型交流プログラム。「1対1」と、6人程度の「グループ」の2種類がある。参加者は事前に、自身の職業や興味のある分野、話したいこと、聞きたいことをアンケートフォームに入力する。情報を基に、スタッフが組み合わせを決める。途中で入れ替えながら、「1
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子どもの最善第一に 放課後児童クラブの主任支援員/宮崎深雪さん【アフターコロナへ 私の視点⑩】
放課後児童クラブは、遊びと生活を提供する場。子どもの健やかな育ちを支えるのが私たちの役目です。厚生労働省の運営指針には「子どもの最善の利益を考慮する」とあります。刻一刻と状況が変わる時こそ、その最善とは何かを見極めていかなければなりません。 子どもへの感染が広がった2021年、静岡県内のクラブでもクラスター(感染者集団)が相次いで発生しました。常時子どもにマスク着用や黙食、距離の確保を完璧にさせるのは無理なのに「児童がマスクを外して会話していた」などと落ち度があったように報道され、各クラブの設置主体と運営主体、支援員らは次第にピリピリし始めました。 大人が社会的制裁や外部からの非難を避
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静岡人インタビュー「この人」 オクシズの「こぐまプレイス」で働く保育士 後藤歩美さん(静岡市葵区)
抱っこひも、おんぶひも専門店「北極しろくま堂」のパート社員。同社は静岡市葵区の中心街から「オクシズ」と呼ばれる山あいへ移転し、子育てと起業を支援する新拠点「こぐまプレイス」を併設。保育士資格を生かし、「親子ひろば」の運営を始めた。近くの玉川地区に移住し1年。三島市出身。32歳。 -「親子ひろば」とは。 「毎週火曜と木曜、親子を対象に敷地を開放し、手作りのおむすびランチを提供する。助産師と私が常駐し、産後や育児の相談に乗る。参加費は大人500円、中学生以下無料。ランチは1食500円。弁当の持参もできる。日によってベビーマッサージなどの催しもある」 -どんな場を目指すか。 「親も子も、心
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ゴキブリとの遭遇どう対処 生態知って冷静に 「ゴキブリスト」柳沢さんが指南【NEXTラボ】
「G」とも呼ばれ、避けられがちなゴキブリ。苦手な人にとっては受難の季節がやってきた。なるべく鉢合わせしないためには、その生態を理解しておくことが足掛かりになるかもしれない。新種を発見したり図鑑を出版したりとゴキブリの研究、広報に取り組み、「ゴキブリスト」を名乗る柳沢静磨さん(28)=磐田市竜洋昆虫自然観察公園職員=を訪ね、生態と、万一出合った時の対処法を教わった。 生態理解し冷静に 世界では約4600種、国内では柳沢さんが自ら発見した4種を含む64種が確認されている。その中で、本県の一般家庭に最も多く出没するのはクロゴキブリだ。年中暖かい設備と食べ物のあるレストランなどではチャバネゴキブ
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学生の困窮支援を続ける大学教授/津富宏さん 社会構造の課題表面化【アフターコロナへ 私の視点⑨】
私にとって健康とは、社会的評価に過度に振り回されることなく、欲求を追求できている状態。大学教員になった20年前は、健康で心身が充実した学生が大勢いました。彼らは自分の内面をよく知っていて、成熟していました。そうした学生は少なくなる一方、心にもろさを抱え、さらに経済的困難から心身が疲弊した学生が増えてきたと感じています。新型コロナウイルスの流行は、その困難を一段とあらわにしたといえます。 困窮する学生は、親が支配的だったり親と不仲だったり、家族が病気がちなどの理由で、実家を頼れないことが少なくありません。流行1年目の2020年、アルバイトの多くが解雇され、仕送りが十分でない学生は即生活を切り
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多言語での発信不可欠 国際交流協会職員として外国人を支える 岡田シモネさん【アフターコロナへ 私の視点⑧】
新型コロナウイルス下、外国人はいつにも増して「日本語の壁」に直面しました。一番困ったのは、ワクチンや給付金など生活に不可欠な情報を理解すること。日本人と同じように税金や社会保険料を納めているのに、日本人と同じタイミングで情報を得ることができなかったのです。私たちは多言語への翻訳と周知に努めましたが、さまざまなルールはめまぐるしく変わり、対応が追いつかないほどでした。 浜松市に住む外国人の中心は働く世代。その多くが、工場に勤める歩合制の派遣労働者です。2008年のリーマン・ショックと同様、新型コロナの流行が始まった20年も、彼らが真っ先に、解雇や労働時間削減の対象になりました。生きるためには
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対面での交流 より深く出産を語り合う 「お産ラボ」を主宰/平田砂知枝さん【アフターコロナへ 私の視点⑦】
妊娠、出産、産後はただでさえ、先の見えない不安や心配事に次々と直面します。「この時期で良かったのかと一瞬思った」。女性がお産体験を語り合う「お産ラボ」の場で、そう口にした参加者がいました。コロナ下の妊産婦は特に、不安や孤独を感じがちな日々だったと思います。 「妊娠中におなかを触ってほしかったけど、自分の親にも会えなかった」「赤ちゃん連れに声をかけたくても、かけると迷惑かと思い遠慮した」といった話を聞きました。家族にコロナ陽性反応が出て産科の受診を断られたなど、一時的に「受診難民」になった例もありました。 以前は毎回、参加者の話の要旨をウェブサイトで紹介していたんです。自身の体験が、同じ
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「感染したくない」発想変えて 浜松医療センター・矢野邦夫医師が解説 新型コロナ5類移行・静岡新聞社アンケート【NEXT特捜隊】
新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類になるのに合わせて静岡新聞社「NEXT特捜隊」が実施したアンケート(回答者283人)では、ウイルスへの警戒感や感染対策に対する回答者ごとの認識の差が際立った。30年以上にわたりさまざまな感染症と向き合ってきた矢野邦夫・浜松医療センター感染症管理特別顧問に、新型コロナの現状と見通しを解説してもらうとともに、回答者から寄せられた主な質問に答える。 3年前、新型コロナは誰もかかったことがなく免疫を持たない、ワクチンも治療薬もない「新型」でした。いまは違います。 ウイルスは淘汰[とうた]されないよう変異を繰り返すもの。元々風邪ウイルスとして4種類のコロナ
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マスク「状況に応じて」4割 感染時の不安「後遺症」最多 静岡新聞社アンケート【NEXT特捜隊】
読者と双方向の報道に取り組む静岡新聞社「NEXT特捜隊」は2~7日、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に移行するのに合わせ、マスク着脱の意向やウイルスへの警戒感を尋ねるアンケートを実施した。厚生労働省が「個人の判断が基本」とするマスク着用は「場所や状況に応じて判断したい」が「外したい」「着けたい」を上回った。感染症法上の扱いは変わっても後遺症に対する不安の声は根強く、感染対策への考え方やリスクの捉え方は多様であることがうかがえる。 紙面のほかLINEとツイッターでアンケートフォームへの記入を呼びかけ、283人から回答を得た。マスクを「できれば外したい」としたのは30・0%(8
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日常を保つ大切さ実感 全国保育士会会長を務める園長/村松幹子さん【アフターコロナへ 私の視点⑥】
正直なところ、この3年の環境の変化が園児に明らかな影響を与えたとは、あまり感じていないんです。当園では職員がマスクを着けたこと以外、日常の保育はほぼ変えていないからかもしれません。 例えば給食。大きい子や大人と違い、乳幼児は食べるかしゃべるか、どちらかに集中します。食べることに集中していれば、保育士があえて黙食を呼びかける必要はありません。食事以外の時間も、それぞれが遊びに夢中になっていれば、のべつ幕なしに騒ぐこともありません。 おもちゃを消毒するなどの特別な対策もしませんでした。日々の基本であるうがい、手洗い、換気、拭き掃除をしていれば、インフルエンザや胃腸炎などの感染者が出ても、次か
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大学教員で各国の伝統療法に詳しい 清ルミさん 不安に取り込まれないで【アフターコロナへ 私の視点⑤】
新型コロナウイルス下、学生と高齢者の様子は対照的でした。学生は群れて騒ぎたいのに翼をもがれたよう。いら立ちを秘めていました。今は講義中もくっつきたがっています。一方、高齢者はもろに不安のあおりを受けて萎縮しました。明るくずぶとく、普通に生きる力を失わされたと感じます。今も感染を警戒して縮こまっている人が少なくありません。 プラセボ効果を知っていますか。偽薬を本物の薬と思い込んで服用すると、症状が回復する現象です。逆に「これは漆の葉」と告げられ、ただの葉っぱで肌をなでられると、炎症が起きることがあります。医学界ではよく知られた話です。 メディアを見るたびに、ウイルスの拡大画像とともに感染者
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出産保険制度 新たに創設を 静岡県助産師ら国に提言
政府が検討する正常なお産への公的医療保険適用を巡り、助産師と大学教員、母親らでつくる出産ケア政策会議は27日、厚生労働省に、新たな「出産保険制度」の創設を求める提言書を提出した。 静岡県助産師会の草野恵子前会長ら同会議のメンバーが、伊佐進一副大臣に面会して手渡した。産前から産後まで、産科医療機関や助産所が妊婦の多様なニーズに応じていくには、医療保険を補完する柔軟な制度が必要だとしている。 提言書には、妊娠が分かった時点で妊婦が地元の産科や助産所の情報を検索、予約でき、診療記録を閲覧できるデジタルシステムの導入も盛り込んだ。システム導入については、こども家庭庁へも同日、提言書を提出した。
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憲法学者 根本猛さん 「森を見て」互いを尊重【アフターコロナへ 私の視点④】
憲法13条に「すべて国民は、個人として尊重される」とあります。権力は、個人の生き方に関与してはならないという意味です。健やかに生きるうえで、多様なものの見方や考え方、選択が認められる社会であることは大前提です。新型コロナウイルス下は、その大前提が揺らぐ危うさを感じました。 2020年から政府は徹底した感染対策を呼びかけていましたが、世界保健機関(WHO)の発表などから、少なくとも子どもや若者については「ここまで大騒ぎする話か」と疑問でした。 21年、静岡市内の感染症医らが、医療、教育、報道関係者を集めて開いた「コロナ差別を考える勉強会」に参加しました。そこで初めて「大半の感染者は、テレビ
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支え合いの基盤 より強く 市民主体のまちづくりを支援/深野裕士さん【アフターコロナへ 私の視点③】
2020年の突然の一斉休校、そして緊急事態宣言の発令はショックでした。首相の一言で、社会の営みがぱたりと止まると思い知ったからです。われわれが日々取り組む「市民主体のまちづくり」は不要不急なのかと自問しました。 社会課題は、行政、企業、地域の隙間に生じるといわれます。3者の体力が弱まれば、隙間は広がる。その隙間を、人と人のつながりで埋めようとする。直接手を差し伸べ合うことで課題解決を目指す。それが市民活動、まちづくりです。 生活困窮家庭への食料支援はまさに急を要するので、宣言発令中も続きました。一方、対面での交流や議論をする活動は全て休止でした。オンラインに移行し、昨年から再び対面に戻し