テーマ : NEXT特捜隊

バス、タクシー運転手の「名札」掲示義務廃止 静岡県内事業者の対応は?【NEXT特捜隊】

 公共のバスやタクシーの運転手が利用者に自らの身分を示すため、これまで長く車内での掲示が義務付けられてきた「名札」。しかし、最近はそのようなケースが減っている。プライバシーへの配慮や働きやすい環境づくりなどを理由に、国が8月の省令改正で義務付けを廃止し、運転者証の様式を変更するなどしたためだ。実際の運用はそれぞれの事業者の判断に委ねられている中、静岡県内ではどのように対応しているのだろうか。現状を取材した。
 (デジタル編集部・金沢元気)
【▶静岡新聞社NEXT特捜隊 LINE友達になる】 

▶バス車内の運転手名プレート、SNS中傷の材料に/「業務に支障」「掲示やめて」切なる訴え【パートナー紙から】

個人情報守り 働きやすく  >>カスハラ問題化

 バス、タクシーの氏名掲示は運転手の責任を明確にし、トラブルの発生時には乗客が車両を特定しやすくすることを目的に、1956年から運用されてきた。しかし近年、乗客から従業員への迷惑行為や悪質なクレームといった「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が全国で問題化している。運転手の氏名掲示の代わりに車両番号を張り出すバス車内=11月中旬、静岡市駿河区
 静岡県内関係者への取材では「バス運転手が名札を撮られたという話があった」(遠州鉄道担当者)「運転者証を撮られた」(静岡市のタクシー運転手)などの声があった。県バス協会の堀内哲郎専務理事は「現在はドライブレコーダーが普及しているため、乗客の安全は保たれているのではないか」とみる。
 路線バスを運行する県内の主要な7社は既に、名札の掲示をやめたり、廃止を検討したりしている。県中部を中心に約400台の路線バスを扱うしずてつジャストライン(静岡市葵区)は10月末で取りやめた。同社には約40人の女性運転手がいて、夜間時間帯の運行もあるため、安全面の確保は重要との見解を示す。広報担当者は「名札がSNS(交流サイト)に勝手にアップされる心配はある。省令の改正は採用面で少なからず良い影響を与えるはず」と、深刻化する運転手不足の中でのプラス効果も期待する。


 >>切り替えに遅れ

運転手のプライバシーが保護された運転者証を掲示するタクシー車内=11月中旬、静岡市駿河区 県内のバス運行会社では名札の掲示取りやめが進む一方、タクシー業界ではプライバシーに配慮した新たな運転者証への切り替えが遅れている。背景には、新型コロナウイルス禍からの回復に苦慮している業界の現状などがあるという。
 省令の改正により、タクシーの車内に掲げる運転者証は新たなデザインに変更された。乗客が見ることができる表面には事業者名や登録番号、または許可番号を記載し、顔写真や氏名は裏面に示されている。
 運転者証の発行業務などを行う県タクシー協会は当初、他県の取り組み状況などを踏まえ、新たな仕様への切り替えを1年間で完了しようと検討した。だが、手数料として1人当たり最大1000円が必要な上、運転免許証の更新前は従来の運転者証を使用できるため、新たな費用負担にならないように免許更新時までの変更を促している。
 同協会によると、県内における新たな運転者証の交付は10月現在、全運転手の約2割に当たる1000人程度にとどまる。運転手が自費で更新するケースも多いが「女性や若者を中心に申し込みがある」という。
 240人ほどの運転手がいる静鉄タクシー(静岡市駿河区)では、希望して交付を受けたのは数人程度。村松大介総務課長は「運転者証を巡る目立ったトラブルは聞いていない。(顔写真などがない)新様式に変わっても乗客の安心は変わらないはず」と説明した。
 一方、同市葵区の千代田タクシーは、6人いる女性運転手全員の運転者証を8月中に切り替えた。加藤高立社長(73)によると、酒に酔った乗客からのセクハラなどの訴えがあったため「すごく歓迎された」と振り返り、「仕事環境を整えようと、優先的に変更を決めた」と強調。加藤社長は「女性ドライバーは介護や通院、買い物目的の乗客から特に評判が良い。採用を増やすきっかけにしていきたい」と話す。

→NEXT特捜隊 公式サイトはこちら

▶身近な疑問、 モヤモヤ、困りごと...静岡新聞社NEXT特捜隊へお寄せください。

いい茶0

NEXT特捜隊の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞