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静岡県信用保証協会 「事業者の味方」岐路に【NEXT特捜隊】

 静岡県信用保証協会は中小、零細事業者を支える役割を果たしているとは思えません―。静岡新聞社「NEXT特捜隊」に、静岡市で茶問屋を営む70代男性からメッセージが寄せられた。公的な保証人として中小企業の借り入れをサポートする同協会。「事業者の味方」であるべき組織の現状や課題を探った。

借り入れの記録を確認する男性経営者と、県信用保証協会が入居するビルのコラージュ。男性の事業所は近年、業績が厳しく、県信用保証協会に保証料率の見直しを求めている
借り入れの記録を確認する男性経営者と、県信用保証協会が入居するビルのコラージュ。男性の事業所は近年、業績が厳しく、県信用保証協会に保証料率の見直しを求めている


 ■高い保証料率
 「保証料の減額には応じられない」。1月下旬、男性に県信用保証協会の担当者から連絡が入った。男性は10年以上前に協会の保証付きで金融機関から数千万円を借りた。保証料率は年1.5%超。以来、借金の残額に応じて毎年、八十数万円~六十数万円を協会に支払ってきた。東京電力福島第1原発事故に伴う風評被害やコロナ禍が茶業界を直撃し、業績は厳しい。協会には保証料率の見直しを求めていた。男性は「金融機関の金利が下がっている今の時代、この料率の高さはあり得ない」と憤る。
 3月上旬、同協会を取材に訪ねた。経営企画部によると、保証料率は中小企業信用リスク情報データベースを利用して財務評価を行い、業種や後継者の有無などを加味して自動的に算定される。全国一律で9段階あり、恣意[しい]的な要素が入り込む余地はないという。ただ、保証料率が「高い」との声は協会に多く届いている。「県内金融機関の競争が激しく、融資の利率が下がり続けているので保証料の割高感があるのでは」と幹部職員。「保証料率は金利のような市場原理は働かない。必要経費と考えてもらうしかない」と説明する。

 ■会長は元副知事
 男性からは「協会は県幹部OBの天下り先になっている」との指摘も寄せられた。調べてみると、トップである会長は現在まで3代続けて元副知事。その前も県出納長や副知事などの経験者が占め、確認できただけで県幹部OBが9人連続で就いている。本県は会長ポストについて「(県幹部OBの)指定席ではない。ゼロからしっかり応募していただく」(川勝平太知事)として2010年から公募制を導入したが、結果的に元副知事が3人続いている。そこで全国に51ある協会を調査したところ、トップは全て都道府県や市の幹部OBと判明した。
 県政の内情に詳しい関係者は「協会と連携し、施策面で一体的に動くことが多いからでは」と見る。行政への影響力や組織管理の経験値が重宝される理由のようだ。

 ■寄り添う姿勢で
 「保証協会からは通知が届くだけで職員と会ったこともない。顔が全く見えない」と語るのは、協会の保証付きで借金した経験がある静岡市の不動産賃貸業の70代男性。「リスクは金融機関が引き受ければいいのでは」と訴える。
 県商工金融課によると、コロナ禍の前まで、協会の保証の利用は減少傾向が続いていた。保証料の割高感で、金融機関も活用しにくい雰囲気があったという。コロナ禍で保証の利用は急増したが、同課は「国の施策で保証料が実質ゼロになったのが要因。増加は一時的」と見る。
 中小企業経営に詳しい県立大経営情報学部の落合康裕教授は「協会の役割は中小企業の支援だが、事業者の体力を奪う結果になれば本末転倒。柔軟な対応ができていないのでは」と指摘する。基本理念に「中小企業のために存在していることを自覚し」と掲げる同協会。近年は事業者に寄り添おうと、経営改善の支援に力を入れる。コロナ禍後も見据え、存在意義が改めて問われる。

 <メモ>県信用保証協会 中小企業が金融機関から事業融資を受ける際に公的な保証人として借り入れをサポートする組織。1949年に発足した。県内の中小企業約12万社のうち、約5万3000社が保証を利用している。

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