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テーマ : 島田市

社説(10月9日)大井川鉄道の活路 観光を軸に議論進めよ

 昨年9月の台風15号で線路の複数箇所が被災した大井川鉄道大井川本線は今月、運行区間の中間点付近の家山―川根温泉笹間渡間2・9キロが復旧した。これで全線の半分に当たる島田市区間約20キロが運行再開したが、残る終点の千頭までの川根本町区間は被害が大きく、全線復旧の見通しは立っていない。
 静岡県は3月、「大井川鉄道本線沿線における公共交通のあり方検討会」を初開催。そこでは台風被害以来運行休止している上流側の家山駅から千頭駅までは代行バスがほぼダイヤ通り運行し、乗客の積み残しも発生していないことが報告された。その後、会議は開かれていない。
 公共交通としての代替手段は確保されているからといって検討を足踏みさせてはならない。この会議でなくても、蒸気機関車(SL)や「きかんしゃトーマス号」の運行で知名度が高い大鉄の「あり方」は観光資源として地域とのつながりの中で議論する必要がある。観光を軸に多様な角度から検討して公共性と持続可能性が確かめられたら、ためらうことなく全線復旧支援に踏みだしてほしい。
 新型コロナウイルス感染症による観光乗客減に台風被害が追い打ちをかけ、大鉄は2022年度まで4期連続の赤字となった。今回の延伸再開に合わせ、ダイヤ改正を実施。SLを増発する一方、電車の運行本数を減らして、運賃収入の9割が定期外という観光列車の重点化を強めた。
 観光路線強化には全線復旧が欠かせない。しかし、約19億円とされる費用負担は大鉄には重く、公的支援を必要としている。住民の足の確保ではなく観光列車の運行支援に向け税金を使うことに理解を得るには、それが地域活性化につながり、さまざまな効果があるという説明が必要だ。
 SLに乗るだけが目的ではなく、奥大井の自然や沿線の小規模でも魅力的な観光資源を目的地に人が訪れるよう、大鉄は地元市町や住民団体と協調して、交流人口を増やすアイデアを出してほしい。
 大鉄の鈴木肇社長は現状を「多くの沿線住民にとって、乗らないが必要な鉄道」と表現する。全線復旧を求める川根本町の町民らの団体から署名を受け取った森貴志副知事は「観光資源としての価値を考えていきたい」と述べた。活路は観光にしかない。
 大井川鉄道は、大井川上流のダム建設と木材輸送を目的に設立された。高度経済成長期までは旅客、貨物輸送とも発展したが、車の普及とともに利用は減少。76年にSL運転を復活させた。
 今回の苦境の克服には、線ではなく、面の取り組みが求められる。全線復旧を待つことなく先手を打ちたい。

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