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テーマ : 事件事故しずおか

ストーカー禁止命令 凶行抑止には不十分 加害者の更生支援必要 全国で事件、浜松でも【ニュースBOX】

 浜松市東区のマンションで10月下旬、住人の30代女性が、元交際相手の男に刃物で切りつけられる事件が発生した。殺人未遂容疑などで逮捕、起訴された男はこの女性に、つきまとい行為を繰り返し、ストーカー規制法に基づく禁止命令を受けていた。禁止命令を受けた加害者が凶行に及ぶ事件は全国で後を絶たず、対応の難しさが浮き彫りになっている。識者は行政処分による抑止効果では不十分として、加害者の更生支援を義務づける制度設計の必要性を指摘する。ストーカーによる主な凶悪事件
 男はマンション4階の一室にベランダから侵入し、女性と、同居する60代男性の2人の帰宅を待ち伏せして刃物で切りつけた。女性から交際解消を迫られ、恨みを募らせた男は女性に「おまえのせい」「死んでやる」などとメールを送信。浜松東署は3月、つきまといの反復を禁じる禁止命令を男に発出した。男女2人が切りつけられたマンションで、屋上付近を調べる捜査員=10月、浜松市東区

対策の限界
 男はその後、同署に「(女性と)連絡を取りたくなってしまう」と相談していた。同署は女性に対し、最大で月3回の定期連絡や緊急通報装置の貸与、自宅周辺のパトロールなど警戒を強化した。9月下旬の最後の定期連絡では、女性から「つきまといはない」と報告を受けていた。
 「現行の制度を踏まえ、やれることはやったとみている」。同署幹部は、一連の対応をこう振り返る。女性の安全を確保するため、転居や車の買い替え、電話番号の変更など防犯対策も提案したが「仕事がある人だとすぐに転居は難しい。車や電話番号の変更も、金銭面や手間の部分で壁は高い」と実情を語る。

任意のハードル
 県警は被害抑制に向け、医療機関などと連携し、2016年から加害者に治療やカウンセリングを勧めている。対象は警告や禁止命令を受けた全員だ。
 ただ、受診は任意である上、費用は自己負担のため、受診に結びつくケースは多くない。県警人身安全少年課によると、22年は69人に働きかけ、受診したのはたった2人。同年までの7年間で受診率は2~7%にとどまっている。
 福岡市で1月、女性(当時38)が刃物で刺され死亡した事件も、殺人容疑で逮捕された男は2カ月前に禁止命令を受けていた。警察庁は命令後の対応を強化するため、本県を除く10都道府県警で禁止命令を受けた加害者全員に連絡を取ったり、精神的治療の効果を説明したりする取り組みを試行している。

受講命令の義務化
 行政の指導や命令に従わない一部のストーカーからいかに被害者を守るか―。ストーカー対策に詳しい慶応大法学部の太田達也教授(59)は、禁止命令などは処罰による心理的な抑止効果しかなく、こうした一部のストーカーには効果がないと指摘。「つきまとい行為をやめさせるしか被害者を守る方法はない。意識改善を促すプログラムの参加を加害者に義務づける受講命令の制度化が必要」と強調する。
 受講命令の義務化で加害者の動静を把握でき、プログラムに参加しなくなったなど危険性がある場合は、被害者を緊急保護することも可能だ。一方でストーカーに対する禁止命令を裁判所が出す海外とは異なり、日本は都道府県公安委員会や警察が出す点などを踏まえ「行政機関が受講の命令を出せるかどうか。人権侵害などと指摘される可能性があり、制度的に難しい」と課題もある。
 太田教授によると、国内ではつきまといなどをやめられないストーカーが相談できる専門機関が少ない。自身の行動に苦しんだり、悩みを抱えたりする当事者もいることから「殺傷といった加害行為に出る前から相談に乗り、助言を行う支援機関を社会の中に多く整備すべきだ」と提言する。
 (浜松総局・池田悠太郎)

ストーカー規制法
 つきまといなどを繰り返すストーカーに警告や禁止命令を出し、悪質な場合は摘発すると定めている。埼玉県桶川市でストーカー被害の末に女子大生が刺殺された事件を受け、2000年に成立。これまでに3度改正され、交流サイト(SNS)のメッセージや、衛星利用測位システム(GPS)による監視にまで規制の対象は広がった。禁止命令などの違反者には2年以下の懲役などが科される。

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