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テーマ : 事件事故しずおか

戻らぬ娘、せめて真相を 重ねた面談、尽きぬ「なぜ」【届かぬ声/牧之原バス置き去り在宅起訴 ㊤遺族の思い】

 法律って何なんだろう―。9月下旬、静岡地裁の202号法廷。傍聴席の中央後方に座った河本千奈ちゃんの父(39)は、柵の向こうで交わされる法曹三者のやりとりにぼうぜんと耳を傾けていた。

河本千奈ちゃんが愛用していたポシェット。痛ましい事件の全容解明は法廷に託される
河本千奈ちゃんが愛用していたポシェット。痛ましい事件の全容解明は法廷に託される

 傍聴したのは乗用車を無免許運転し男性をはねて死亡させ、そのまま逃走したとして、自動車運転処罰法違反(無免許過失致死)などの罪に問われた男の論告求刑公判。いずれ自分も被害者遺族として臨む裁判の流れを知るため、牧之原市から足を運んだ。
 亡くなった被害男性の妻は意見陳述で、残された幼い2人の子どもとの日々を声を震わせながら語った。悲しみに暮れる自身の境遇と重なり、涙をこらえきれなかった。ところが、検察官の求刑を聞いて、われに返った。
 「懲役4年6月」
 現実を突きつけられた気がした。遺族が納得できるわけがない。あの奥さんは加害者に「一生刑務所から出てくるな」と思ったはずだ。大切な娘を奪われた自分のように―。
   ・ ・ ・
 千奈ちゃんの両親は昨年9月5日の事件直後から、川崎幼稚園の関係者と自宅で面談を重ねてきた。警察や検察の捜査が終わるまで、事件当日の状況などが何も分からないのは「耐えがたい」(父)という思いからの単独行動だった。
 こみ上げる怒りを抑えて疑問点を直接問いただすと、ずさんな安全管理の実態が次々と明らかになった。処罰感情は日を追うごとに薄れるどころか、高まる一方だった。
 今年9月下旬、同園の運営法人は代理人を通じ、訪問を当面見合わせると通告してきた。文面は訪問が「河本様をかえって苦しめる現状」を避けることを理由に挙げていた。両親は毎回の面談に苦しさを覚悟の上で臨んでいた。園関係者が娘の死にどこまで真摯(しんし)に向き合っているのかを知る意味でも継続を求めたが、回答は変わらなかった。誠意は感じられなかった。
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 事件から約1年2カ月、静岡地検は当日バスを運転していた増田立義前園長(74)と元クラス担任(48)を業務上過失致死の罪で在宅起訴した。同罪の法定刑の上限は懲役5年。娘が失ったこの先の長い人生を思うと、どうしても不釣り合いだと感じてしまう。遺族の思いと現実の差にむなしさが募る。
 前園長と元担任を含む園関係者と重ねてきた面談で、「納得できる点は一つもなかった」と父は言う。たとえ法廷であっても納得できることはないと思うが、せめて全てを明らかにしてほしいと願う。「なぜルールを決めていなかったのか。千奈についてどう思っているのか。取り繕った言葉は要らない。正直に全部話してほしい」
   ◇
 牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で園児の河本千奈ちゃん=当時(3)=が送迎バスに置き去りにされて亡くなった事件は24日、園関係者2人の起訴という一つの節目を迎えた。遺族の思いと捜査機関の判断の深層を探る。
 (「届かぬ声」取材班)

 裁判開始へ 「ようやく報告できた」
 牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」の前園長と元担任が業務上過失致死罪で在宅起訴されたことを受け、亡くなった河本千奈ちゃん=当時(3)=の両親ら遺族一同は24日、代理人を通じて「ようやく刑事裁判が始まることを娘に手を合わせ報告できました」とのコメントを出した。裁判では被害者参加制度を利用し、心情や意見を述べる意向も明らかにした。
 書類送検された4人のうち2人の起訴だったことは「遺憾ではありますが大きな進展があった」と受け止めた。前園長には運転手として千奈ちゃんをバスに閉じ込めた上、安全管理が不十分なまま園を運営してきた経営者としての責任を、元担任には千奈ちゃんの所在確認を怠った保育士としての責任を取るよう求めた。不起訴処分となった乗務補助の元派遣職員と元副担任については「法的には無罪だったとしても娘の命を救うことができたと今でも強く思っています」とした。

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