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テーマ : 島田市

大自在(2月10日)兜に秘めた仏

 極限まで心身を高めて臨んだ試合は「周りから音が消え」「滑るべき光のラインが現れる」。長野五輪スピードスケートの金メダリストは、神秘的な体験を語った(吉井妙子著「神の肉体 清水宏保」)。
 北京冬季五輪で日本に24年ぶり「金」の小林陵侑選手のジャンプや高木美帆選手らの滑りを見ながら、清水さんの現役時代を思い出した。冒頭の言葉は、鍛錬によってアスリートが到達する境地と、死と隣り合わせの戦国武将の精神世界を対比した論文に引用されていた。
 論文の筆者は、江戸幕府の直轄林を管理する「御林守[おはやしもり]」を代々務めた旧家の15代当主河村隆夫さん(70)=島田市=。自宅仏壇に安置された3センチほどの大日如来像に引かれ、武将が兜[かぶと]の中に入れて戦った「冑仏[かぶとぼとけ]」を研究して30年になる。
 「冑仏? 聞いたことも見たこともない」。最初はあちこち問い合わせても、空振りの連続。源頼朝が挙兵の直後、石橋山の戦で大敗し身を潜めた洞窟で髻[もとどり]から聖観音像を取り出し拝んだという鎌倉幕府の歴史書「吾妻鏡[あづまかがみ]」の記述は伝説とまで言われた。
 この場面は先日の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にあった。河村さんは論文で戦士を究極のアスリートとみた。生還して他人に話しても信じてもらえない極限の戦場の神秘体験と信仰が、冑仏が秘された理由だと考察する。
 20年ほど前、河村さんは経営する塾の生徒に「いつか君たちは、テレビや映画の中で戦国武将が兜から小さな仏像を取り出すシーンを目にすることになるかもしれない」と語ったという。今、現実になった。

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