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装着式人工乳房知って 三島出身の北堀さんら 都内で起業

 がんやがん治療に伴う見た目の変化による苦痛を軽減する「アピアランスケア」の一環で、乳がんなどで乳房を切除した人向けの装着式人工乳房への関心が高まっている。人工乳房の販売会社「カノアクルー」(東京都)を友人と立ち上げた三島市出身の北堀善美さんも啓発に取り組む一人。自治体による購入費補助も広がりつつあるが、医療用ウィッグなどに比べて一般の認知度はまだ低いといい「選択肢の一つとして人工乳房を知ってほしい」と訴えている。

装着式人工乳房のサンプルを手に打ち合わせする(右から)鈴木万紀子さん、北堀善美さん、秋沢京子さん=東京都三鷹市
装着式人工乳房のサンプルを手に打ち合わせする(右から)鈴木万紀子さん、北堀善美さん、秋沢京子さん=東京都三鷹市

 カノアクルーは代表の鈴木万紀子さんと北堀さん、下着販売の経験がある秋沢京子さんの3人で設立し、2021年に三鷹市にサロンを開いた。新潟県のメーカーと連携して100%シリコーンの人工乳房を販売している。柔らかい質感で、装着したまま入浴も可能。大きさなどを決めた後、一人一人に合わせて皮膚の色味などを細部まで調整し、商品を提供している。
 鈴木さんが病気治療で入院したことや、人工乳房のメーカーに北堀さんの知人がいたことなどが起業のきっかけになった。「乳がんは治ることが多い病気だが、元気になってから喪失感を抱える」と鈴木さん。サロンを開くと「商品を見てみたい」という声に加え「乳房再建手術をするか判断を迫られている」と突然のがん告知に戸惑う女性からの問い合わせもあった。
 10年前に右乳房を摘出した都内の女性(68)は4月、同社で人工乳房を購入した。当時は再建手術まで考えなかったが「精神的なつらさを周囲に相談できなかった。人の目が気になり、大好きだった日帰り温泉に行けなくなった」という。着用後はパッドで再現できない乳房の重みやシルエットを感じているといい「温泉が楽しみ。体が元気なうちに人生を楽しみたい」と話す。
 北堀さんは「商品を見た女性から『希望の光になった』という声を頂き、人工乳房そのものが知られていないと実感した。9人に1人が乳がんになると言われる中、悩む人に寄り添う存在でいたい」と話す。3人は今後、サロンを核に人工乳房について気軽に相談できるコミュニティーづくりにも取り組む方針だ。  自治体の購入補助 進む 静岡県は充実  人工乳房を含む医療用補正具の購入を補助する自治体は全国で増えつつある。静岡県内では全35市町が制度を設け、政令市を除いて県、市は2分の1ずつ最大10万円を補助している。他の自治体は補助額の上限が3万円程度というケースも多く、本県の制度は充実している。県疾病対策課によると、2019年度の制度開始以降、3年間で計30件の申請があった。
 医療用ウィッグ専門店で人工乳房の製造・販売も手がける「グローウィング」(大阪市)は全国の自治体の補助制度を調べ、4月19日時点で確認できた約400件の情報をホームページに掲載している。同社の担当者は「まだ補助がない自治体もある。区や市町で対応が異なる例も多い」と話す。
 乳房再建手術は保険適用により費用負担が少なくなったが、入院による仕事への影響や「再び体を傷つけたくない」などの理由で選ばない人もいる。乳房再建の情報発信を行うNPO法人「エンパワリング ブレストキャンサー」の真水美佳代表は「事前に情報を知った上で手術する、しないを選択できることが患者のQOL(生活の質)にとって大切」と指摘する。
(東京支社・中村綾子)

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