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茶草場農法継承「向かい風」 世界農業遺産認定10年 静岡県内業界縮小、担い手減・発信模索

 伝統的な茶栽培法「静岡の茶草場農法」が世界農業遺産に認定されて10年。高齢化や茶価低迷で茶業界全体が縮小し、農法の継承にも逆風が強まっている。環境にやさしく持続可能な開発目標(SDGs)に寄与するとして海外からの評価は高まる中、行政は農法を次代につなぐため魅力発信の道を模索する。
岩倉製茶の店内に並ぶ商品。茶草を活用して栽培している=島田市
 栽培から製造、販売までを手がける島田市の岩倉製茶は、同市東光寺の山を切り開いて整えた茶園で1992年から、有機栽培に取り組む。自然農法の研究を重ね、カヤなどの茶草活用を実践してきた。
 茶草を長年、土にまくことで土壌が安定し品質向上にもつながったという。岩倉恵正代表(76)は「近年は若い人や海外顧客で、有機茶に関心を持つ人も多い。茶草は栽培に不可欠な存在」と話す。
 世界農業遺産対象地域の掛川、菊川、牧之原、島田、川根本町の4市1町と県でつくる「静岡の茶草場農法」推進協議会によると、2023年3月時点の県内認定農家数は19年比37・6%減の311戸、茶園面積も30・2%減の836ヘクタールと縮小が続く。茶の販売不振が長引く中、茶草を管理する負担を避けて農法をやめる生産者がみられる。
 静岡県西部の製茶問屋は「茶草場農法の認知は浅く、PRを売り上げ増につなげるのは難しい」と指摘する。
 協議会はこれまでに茶園をめぐるツアーを企画したり、都内の渋谷ロフトで展示販売を行ったりして、農法の魅力発信に注力してきた。今年は韓国で開かれた見本市にブース出展し、各国の茶業者と販売を見据えた情報交換を展開した。
 静岡県内では、世界農業遺産の認定地域ではない中山間地でも茶草を活用する農家はある。「昔は皆やっていたが、今は少なくなった」と話す浜松市天竜区春野町の藤原貞三さん(67)もその1人だ。毎年11月ごろから茶園周辺に生えるススキを干した後にカッターで切断し、茶畑に敷き詰める。
 有機栽培や減肥料を追究しており、「ススキをまくことで肥料の持ちが良くなり、保水力も向上する。時間と手間はかかるが、続けていきたい」と語る。
 (天竜支局・平野慧)

 静岡の茶草場農法 茶畑周辺の採草地「茶草場」で秋から冬にかけてササやススキなどを刈り取り、畑に敷くことで肥料とする伝統的な農業技術。生物多様性の維持につながる点などを評価されて2013年、国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産に認定された。

「ユニークな仕組み 次代へ」 掛川で認定10年記念式典
基調講演する世界農業遺産等専門家会議の武内和彦委員長=20日午後、掛川市
 伝統的な茶栽培法「静岡の茶草場農法」の世界農業遺産認定10周年を記念した式典が20日、掛川市で開かれた。研究者や生産者らが登壇し、多様な生態系保護や観光資源としての活用について展望と可能性を探った。
 基調講演で世界農業遺産等専門家会議の武内和彦委員長は、同農法を「高品質な茶生産と生物多様性が結びついた世界的に極めて珍しい事例」と評価。「これを大事にしていくことは、自然、文化が織りなす日本文化のユニークな仕組みを次世代につないでいくこと」と強調した。
 パネル討論では「世界農業遺産の観光資源としての活用方法」をテーマに、茶農家や旅行業者、農林水産省職員らが意見を交わした。自社農園で茶草場農法体験ツアーなどを実施するつちや農園(川根本町)の土屋裕子さんは「いいお茶を作ることは基本。その上で、どう付加価値をつけて魅力を伝えていくか。消費者との交流はお茶ファンを増やすために有効」と話した。
 記念式典は県や掛川市などでつくる推進協議会が主催した。中国と韓国の認定茶産地の紹介や国内認定地域のパネル展示なども行われた。
 (経済部・垣内健吾)

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