テーマ : 芸能・音楽・舞台

えん【縁】 つまずく石も縁の端 阿部一徳【SPAC俳優 言葉をひらいて④】

 「ああ、生まれてきて良かったなあ」という思いが、からだに走ったことが僕は2度ある。2度目は昨年のフランス、仕事で2カ月近く暮らしたアパルトマンのベランダでワインを飲んでいる時だった。ここ何十年のご縁がご縁を呼び、なんともありがたい仕事環境に身を置くことができたからだとも言える。

えん【縁】 【SPAK俳優 言葉をひらいて④】
えん【縁】 【SPAK俳優 言葉をひらいて④】

 演劇ならぬ、縁劇の話をしよう。幼稚園、「おむすびころりん」のおじいさん役で舞台に立った。小学校、お楽しみ会では紙芝居を作り、全登場人物を語るのが好きだった。人見知りだった僕が、演じることで人とつながれることを意識し始めた時期かもしれない。中学校、よくみんなの前で物真似[まね]を披露していた。
 高校、演劇部に入る。部室に届くプロや大学の劇団からの公演招待や演劇関係の講座へ足を運ぶうちに演劇の魅力にハマっていく、そして高校最後の春、そういう場所で知り合った演劇熱の高い他校の友人たちと劇団を創り、新宿の小劇場を借りて公演するまでになる。その時の上演作品が如月[きさらぎ]小春[こはる]「家、世の果ての」だった。
 大学では、つかこうへい作品を上演する劇団に入ったのだが、なんと、この劇団の代表が、他大学の、主宰者が抜けたばかりの劇団乗っ取りを画策していたのである! そして何も知らされぬまま連れていかれたのが、創立した如月小春さんらが抜けたばかりの劇団綺畸[きき]であった。乗っ取りは失敗に終わるが、僕は綺畸に残った。
 それが、現SPAC芸術総監督の宮城聰さんや、今でも演劇の現場で一緒に仕事をする友人たちが多く活動していた「駒場小劇場」との出会いである。たぶんこの出会いがなければ…。その後1990年に宮城さんから劇団旗揚げ参加のお誘いがあり、そこからじつに33年。縁である。

 あべ・かずのり 東京都葛飾区生まれ。2009年よりSPACで活動。22年にSPAC「桜の園」(ダニエル・ジャンヌトー演出)でフランス2都市をツアー。5月、駿府城公園、浜松城公園にてSPAC「天守物語」に出演。

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