テーマ : 芸能・音楽・舞台

「あいうえお」はっきりと 90歳の声優 羽佐間道夫さん

 キャリアは70年近く、90歳の今も現役の声優として活躍を続けている羽佐間道夫さん。同世代の仕事仲間の多くが世を去ったが、「彼らのさまざまな表現が僕の中に飛び込んで来る。僕は(多くのものを吸収した)海綿体みたいなもの。『これから50年生きたらすげえぞ』と自分に言い聞かせながらやっています」とユーモラスに語る。

「喜怒哀楽をどう表現するかを常に考えます」と話す羽佐間道夫さん=東京都千代田区のホテル
「喜怒哀楽をどう表現するかを常に考えます」と話す羽佐間道夫さん=東京都千代田区のホテル
「FLY!/フライ!」では、気難しいが子どもには優しいダンおじさん(左端)の声を担当した
「FLY!/フライ!」では、気難しいが子どもには優しいダンおじさん(左端)の声を担当した
「喜怒哀楽をどう表現するかを常に考えます」と話す羽佐間道夫さん=東京都千代田区のホテル
「FLY!/フライ!」では、気難しいが子どもには優しいダンおじさん(左端)の声を担当した

 洋画から海外ドラマ、アニメ作品まで出演ジャンルは多岐にわたる。当初は演劇志望で、新劇の舞台で活動していたが、「食えるから」という理由で黎明[れいめい]期のテレビで放映される洋画や海外ドラマの吹き替えに軸足を移した。
 声優業の魅力は「いろんな人に変化したり、さまざまな人生に触れたりできること」と言う。当たり役となった「ロッキー」のシルベスター・スタローンをはじめ、ロバート・デ・ニーロ、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズら数多くの俳優の声を担当。公開中の米アニメ映画「FLY!/フライ!」では、南国の楽園を目指すカモの一家のおじさん役を演じている。
 タイプの違う俳優たちの声を演じ分けられるのは「演じている役者さんが自然に引っ張ってくれるから」。船に例えて「彼らは、ろをこぐ人。その人たちと同じように息をしていれば、だんだんと(役への)理解が深まっていく」と表現する。
 若い頃は、俳優養成の専門学校で学びながら、夜は寄席でアルバイトをする日々を送った。その時に聞いた落語や浪曲、漫談などが「耳で聞かせる」声優の仕事にも役立ったと感じている。
 「『あいうえお』をはっきりと言わないと心は伝わらない。日本の古典をやらないと駄目だと思います」。「ロッキー」のしゃがれ声も大声で浄瑠璃の一節を叫び、喉をガラガラにして作り上げたものだったという。
 声優の世界で堂々たるキャリアを築いたが、自身の出発点となった演劇への思いは今も強い。そんな“生の舞台”へのこだわりは「声優口演ライブ」と題したイベントの定期的な開催や、小学生向けのボランティアの紙芝居として結実している。
 特に人気声優が一堂に集い、アドリブも交えてチャプリンの無声映画などの弁士を務める「声優口演ライブ」はライフワーク。「イマジネーションも使ってセリフを作り、それを孫がおじいちゃんやおばあちゃんの手を引いて見に来てくれる。こんなイベントは他にない。私の誇りです」

 はざま・みちお 1933年10月7日生まれ、東京都出身。50年代から声優として活動。テレビやラジオのナレーション、朗読なども担当する。代表作に米ドラマ「コンバット!」「特攻野郎Aチーム」、アニメ「銀河英雄伝説」など。

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