テーマ : 芸能・音楽・舞台

どれだけ「変」と言われても アーティスト ano

 彼女がしゃべり始めると、どこか不穏な空気が漂う。深夜ラジオで1人の時は毒気があって冗舌なのに、誰かがゲストに加わると、不意に会話を断ち切る危うさもある。テレビでも引っ張りだこ。それでも「あのちゃん」が彼女らしく輝くのは、ソロアーティストのanoとしてステージに立つ瞬間ではないか。

東京・ZeppHanedaで開かれたライブで歌うano(撮影・鳥居洋介)
東京・ZeppHanedaで開かれたライブで歌うano(撮影・鳥居洋介)
アルバム「猫猫吐吐」のジャケット
アルバム「猫猫吐吐」のジャケット
東京・ZeppHanedaで開かれたライブで歌うano(撮影・鳥居洋介)
アルバム「猫猫吐吐」のジャケット

 ファーストアルバム「猫猫吐吐[ニャンニャンオェー]」を引っ提げた東名阪ツアーの最終日。会場のライブハウスは満員で、はち切れんばかりだった。法被姿でみこしに乗って登場し「なにとぞ、よろしう」。一声発すると男女のファンの悲鳴が交錯した。
 昨年のNHK紅白歌合戦で披露した話題曲「ちゅ、多様性。」は中毒性のあるポップソング。だが、ごう音の中、床を蹴り、頭を振るロックなanoも迫力がある。おなじみの舌足らずな甘い声やきりきりと耳に鋭く響く高音、「ウォー」という“デスボイス”まで多彩な声色を使い分ける。
 中盤、アコースティックギターを手に語り始めた。「コミュニケーション力に乏しい。人と話すのもおっくうで…」。内向的で集団になじめず、活躍するほどにインターネットでは否定的な言葉も投げ付けられてきた。尾崎世界観が彼女のために作った楽曲「普変」が胸を締め付ける。どれだけ「変」だと言われても「それでもこれしかなかった」。そう歌う声はまるで悲鳴だ。
 アンコールでは「誠実に生きている人たちが報われる世界じゃない。こんな世の中、本当にクソです」と涙をこぼした。
 コミュニケーション力がもてはやされる時代、それが苦手な人間にとって彼女の存在は救いだろう。自身が作詞作曲した「YOU&愛Heaven」では「全部 壊しちゃえば」と歌った。その声は、たった一人で世界に異を唱えている切実さがあった。

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