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富士山の資料と史跡を後世に 須山「御師住宅」保存 裾野市が検討

 明治時代まで富士登山の主要な道の一つだった「須山口登山道」の起点の裾野市須山地区で、富士山に関する資料と史跡の保存活用が課題になっている。市立富士山資料館が2022年度から休館し、歴史的な「御師(おし)住宅」の仕様が残る旧渡辺家住宅は長年にわたって未整備のまま。市は活用方法が未定だった旧渡辺家住宅を保存復元する方針を決め、周辺に資料館機能を持った新しい公園を整備して複合的に公開する案を検討している。
夏休みに合わせて特別公開された富士山資料館。普段は一般公開していない=8月中旬、裾野市須山
 「現在の保全協力金のような登山料が江戸時代にもあったことが分かった」。8月14日、期間限定で特別公開された富士山資料館を訪れた御殿場市の男性(83)は、興味深そうな様子で館内を見学していた。
須山口登山道
 資料館は古文書や絵図、動物と鳥の剝製、古民具など約6100点を所蔵する。だが、施設の老朽化や新型コロナウイルス禍による来館者の減少を理由に休館し、通常は一般公開していない。裾野市の関係者は「富士山の世界遺産登録を機に周辺市町に新しい施設ができ、存在感が薄れた。交通の利便性が悪く、展示方法も見劣りしていた」と打ち明ける。
 須山地区は江戸から明治期にかけ、登山者の安全を祈願して宿泊などの世話をした「御師の家」が集落を形成していた。旧渡辺家住宅は当時の面影を残す静岡県側唯一の建物とされているが、歴史的な価値が不明確だったこともあり、市は「現建物の再利用」と「残された図面を基に再建設」の両案を検討していた。専門家による調査で御師住宅の希少な現存例とみられることが分かり、保存による復元を決めたという。
 富士山資料館の所蔵品は宝永噴火の記録書や溶岩樹型、火山弾など貴重な資料も多い。まだ計画段階だが、市は旧渡辺家住宅を含む一帯に公園を整備し、展示スペースを新設する方向で検討を進める。
 これまでに、地元特産品を活用した飲食と物販、自然体験、宿泊などの施設を園内に併設する案も出ている。建設予定地の近くには構成資産の須山浅間神社があり、村田悠市長は「須山は富士山信仰を伝えるとても重要な地域。年間を通じ、幅広い世代が訪れる公園を整備したい」と強調する。
 (東部総局・杉山諭)

 須山口登山道 裾野市の須山浅間神社を起点とし、富士山頂に至った登山道。室町時代には使用されていたとの文献がある。明治時代にアクセスの良い御殿場口が開設されると、須山口の登山者は減り、さらに登山道の一部が旧陸軍の演習場になったため、通行できなくなった。現在は旧登山道の一部を利用した須山口登山歩道が整備されている。

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