テーマ : 御殿場市

社説(4月3日)川勝知事突然辞意 無責任のそしり免れず

 静岡県民の負託の重さを理解しているとは、到底思えない引き際だ。2009年の初当選以来、約15年にわたって県政のかじ取りをしてきた川勝平太知事が2日、「6月の議会(県議会6月定例会)をもって職を辞そうと思っている」と突然の辞意表明をした。4期目の任期を約1年残しての辞職となる。
 突然の辞意表明は、1日の新規採用職員への訓示で職業差別と受け取れる発言をしたことを巡り報道陣の取材を受ける中でだった。ところが、県政に多大な影響を及ぼす判断であるにもかかわらず、理由を説明せずに取材対応を打ち切った。あり得ない。24年度予算が成立しているとはいえ、新年度を円滑にスタートさせなければならない重要な時期だ。県職員らの動揺は想像に難くない。「無責任」のそしりを免れない。 
 もしも訓示での差別的発言が辞職の理由なら、人口354万人を擁する県のトップとしてあまりに情けない。訓示では「県庁はシンクタンクだ。野菜を売ったり、牛の世話をしたり、ものを作ったりとかと違い、基本的に皆さま方(新採職員)は頭脳、知性の高い方たち」などと述べた。大方の人は農業や製造業への蔑視と受け止めるのではないか。新採職員への激励としても誠に不適切だ。
 ところが2日の取材に知事は、発言に対する自身の責任を明言せず謝罪もしなかったばかりか、報道で知事への批判が高まっていることに「ここまでこういう風潮が充満していることに憂いを持っている」と述べた。仮に辞意表明が、発言への批判の高まりを受けて急きょ決断したことなら、「逆ギレ」とでも表現するほかなかろう。
 21年参院補選の応援演説で御殿場市を揶揄[やゆ]した、いわゆる「コシヒカリ発言」をはじめとする不適切発言を繰り返した。県議会ではあと1票で不信任決議案が可決されるという事態も招いた。自身、反省の姿勢を見せ「今後、不適切発言をした場合は辞職する」とまで述べた。にもかかわらず同じ過ちを繰り返した責任は、すべて知事にある。
 辞職理由がほかにあるなら、県民に向け直ちに説明しなければならない。初当選以来続く県議会自民党会派との対立や、リニア中央新幹線南アルプストンネル工事を巡って「工事を妨害している」などと批判されたことが背景にあるのか。しかし、そうであるなら、むしろ残りの任期中に事態の打開、改善に向けて全力を挙げるべきだった。
 特にリニア問題では、大井川の流量減少や南アルプスの環境悪化を懸念する県の立場が全国的には十分に理解されない中で、知事の働きに流域から一定の期待があったのは事実だ。任期途中で職を放り出すことは、こうした期待を裏切ることになる。
 川勝県政の誕生は、旧民主党による政権交代と合わせ、有権者が国、地方の政治の刷新を望んだ結果だった。知事は大学の教授や学長を務めた経歴、歯切れのよい弁舌、国や大企業に対しても物おじせずに主張する姿勢などが支持を集め、2期目をかけた13年知事選では、過去最多の108万票を獲得。いかに県民の期待が大きかったかが分かる。しかし、県議会との対立が最後まで続いて県政の停滞を招いた。議会側にも責任の一端はあるにしても、知事の政治手腕の限界だったと言えよう。
 今回の辞意表明で、来年夏に予定されていた知事選が約1年前倒しで行われる見通しになった。次の知事候補を探す動きが加速するのは間違いない。知事が任期の最後まで務めて自身の県政運営を総括し、後任にバトンをつなぐのと、突然辞任してしまうのでは、新たな知事による県政への移行に影響が出るのは避けられまい。
 有権者は川勝県政終焉[しゅうえん]の経緯を見届けた上で、次を誰に任せるべきか慎重に判断する必要がある。

いい茶0

御殿場市の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞