テーマ : 編集部セレクト

社説(3月6日)福島原発処理水 放出前に地元と協定を

 東京電力福島第1原発から出る処理水について、政府は海洋への放出開始を「今年春から夏ごろ」と見込むことを確認した。関係閣僚会議で放出に向けた行動計画を改定し、安全性確保や風評対策に引き続き取り組むとした。
 政府と東電は2015年、「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分もしない」と地元漁業者に約束した。しかし、放出に反対する漁業者の理解を今後数カ月で得られる見通しは立っていない。政府は風評被害対策として300億円、海洋放出後の漁業継続支援に500億円の基金をそれぞれ設けたが、全国漁業協同組合連合会(全漁連)は一貫して放出に反対し、静岡県漁連も足並みをそろえている。
 政府と東電は地元の理解を得られるよう働きかけを強める必要がある。一方的解釈で「理解を得た」と結論付けることなく、風評抑止に引き続き取り組むことなどを盛り込んだ協定を各団体と締結し、「地元の理解」を明確化すべきだ。全漁連は反対を貫くだけでなく、福島の海産物の安全性をPRするキャンペーンを展開するなど、風評抑止に役割を果たしたい。
 処理水の保管は限界が近い。1~3号機の溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やすための注水や建屋に入り込む雨水、地下水を浄化した処理水の保管タンクは1066基あるが、計画容量の137万トンに対して既に132万トンがたまる。年内に満杯になり、新たに保管する敷地もないとされる。
 東電は原子力規制委員会の認可を得て昨年8月、福島県と、立地する大熊町、双葉町の事前了解を取って放出設備の工事に着手した。処理水を必要に応じて二次処理し、除去できないトリチウムを1リットル当たり1500ベクレル未満(国の基準の40分の1)の濃度になるように大量の海水で希釈。海底トンネルを経由して沖合約1キロで放出する。
 政府は行動計画に、風評被害が発生した場合に東電が支払う賠償額の算定方法の具体化を進めることや、海洋放出の必要性について国内外への情報発信を拡充することも盛り込んだ。放出前には国際原子力機関(IAEA)が公表する包括的な報告書を基に、国際機関による安全性の検証を受けたことを周知するとした。
 処理水の海洋放出の安全性などを説明する広報活動の展開により、全国アンケートでは海洋放出に「賛成」「どちらかといえば賛成」との回答が46・0%になったが、周知は不十分だ。岸田文雄首相が先頭に立って地元に向き合う姿勢をこれまで以上に明確に示す必要がある。

いい茶0

編集部セレクトの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞