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林業の労災 スマホアプリで防ぐ 浜松医大病院と静岡県の研究グループが開発 24年度中の実用化目指す

 死傷者発生率が高いという林業の課題の解決に向け、浜松医科大付属病院臨床研究センターの小田切圭一准教授、静岡県森林・林業研究センターの山口亮上席研究員らの研究グループが、労働災害予防のアプリを開発している。山林で作業者同士が近づくと、伐採した木が当たる危険がある。アプリは近接時、スマホのアラームが鳴るなどして警告する。事業者の協力を得て2024年度中の実用化を目指す。

アプリを入れたスマートフォンを近づけてアラームを確認する(左から)浜松医科大の斉藤岳児准教授、県森林・林業研究センターの山口亮上席研究員、同大の鈴木健心さん、小田切圭一准教授=浜松市中央区の同大
アプリを入れたスマートフォンを近づけてアラームを確認する(左から)浜松医科大の斉藤岳児准教授、県森林・林業研究センターの山口亮上席研究員、同大の鈴木健心さん、小田切圭一准教授=浜松市中央区の同大
林業の作業現場では、伐採した木が気づかないうちに近づいた別の作業者にぶつかることがある
林業の作業現場では、伐採した木が気づかないうちに近づいた別の作業者にぶつかることがある
アプリを入れたスマートフォンを近づけてアラームを確認する(左から)浜松医科大の斉藤岳児准教授、県森林・林業研究センターの山口亮上席研究員、同大の鈴木健心さん、小田切圭一准教授=浜松市中央区の同大
林業の作業現場では、伐採した木が気づかないうちに近づいた別の作業者にぶつかることがある

 アプリは1台のスマホから発せられる電波を別のアプリ導入済みスマホが検知し、電波の強さ加減から距離を把握して近接時に音や振動が発生する。無駄な通信を減らして電力消費を抑え、お互い離れた状態なら24時間以上起動していても電池切れを起こさない。課題は木の多さや、幹の太さによって同じ距離でも電波強度が変わる場合があること。伐採現場ごとにアラームの設定が必要なため、今後は事業者に試用してもらってデータを取得し、さまざまな現場で適切な設定を伝えられるよう改良する。
 近接を防ぐため、建設業ではアラームの鳴る重機があり、衛星利用測位システム(GPS)を搭載した近接警告製品もある。ただ、林業は建設業などと比べて事業規模が小さく高価な機器の導入は難しい。スマホアプリなら、安価に危険防止につなげられる。
 小田切准教授は企業の産業医を務めた経験があり、山口上席研究員らと数年前から林業作業者のストレスなどを調べ、アプリ開発に至った。プログラムは浜松医科大次世代創造医工情報教育センターの斉藤岳児准教授の指導の下で、医学科3年鈴木健心さん(21)が作成した。浜松工業高出身でプログラミングの競技大会にも出場経験がある鈴木さんは「臨床や現場の経験が有効なアプリ開発につながる」と強調した。小田切准教授は「林業用アラームのアプリはありそうでなかった。安全性向上に貢献したい」と語る。
 (浜松総局・松浦直希)
林業の死傷発生 突出  林業の労働災害発生率は他の産業に比べて極めて高い。林野庁などによると、労働者1000人当たり1年間に発生する死傷者数を示す死傷年千人率は2022年の1年間で林業が23.5と全産業平均の2.3を大きく上回る。
 突出する原因の一つが、作業者が伐採した木が別の作業者にぶつかることだ。労働安全衛生規則では立木の2倍の間に伐採者以外は入らないと定める。ただ、県森林・林業研究センターの山口亮上席研究員らによると、作業者はチェーンソーを持ち、イヤーマフ(耳栓)を着用して視界の悪い中を歩くため、互いに気づかないうちに近づくことがあるという。

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