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緊急連載【衝撃 知事辞意表明㊥】分断と残る課題 行き詰まった「川勝流」

 「けじめをつけなくてはいけない」。新規採用職員への訓示での「職業差別」と受け取られる発言が報道された2日、長く川勝平太知事を支えてきたベテラン県議は知事に電話し、非を認めるよう促した。知事は「誤解だ」となおもかたくなだった。「もう守りきれない」。4期15年を経てすっかり四面楚歌(そか)になった知事に渡された身内からの「引導」だった。決断への影響は不明だが知事はこの1時間後、突如として報道陣に辞意を表明した。

知事不信任決議案が1票差で否決された後、険しい表情で県議会本会議場を去る川勝平太知事(中央)=2023年7月13日未明、県庁
知事不信任決議案が1票差で否決された後、険しい表情で県議会本会議場を去る川勝平太知事(中央)=2023年7月13日未明、県庁

 2009年に初当選するや、“学者知事”の型破りな言動は県民に大きな共感と戸惑いをもたらした。歯にきぬ着せぬ物言いで国や大企業に対峙(たいじ)する政治姿勢は「川勝流」ともてはやされた。だが、高い発信力による劇場型手法は次第に行き詰まりを露呈していった。
 「川勝流」が下降線をたどる転機は、21年10月の「コシヒカリ発言」だった。圧倒的な支持を得て4選を果たした後の参院静岡選挙区補欠選挙での応援演説。「御殿場にはコシヒカリしかない」と特定地域をさげすんだ。激しい批判が巻き起こり、知事の発言に対する県議会とメディアの監視が強まった。
 県議会は同年11月、県政史上初の辞職勧告決議を可決。23年度には、知事不信任決議案(否決)をはじめ、定例会のたびに知事の発言を問題視する決議が提出された。自民会派との対立は常態化し、県政に停滞をもたらした。
 報道機関との関係も悪化する中、事務方は不用意な発言を警戒し、知事がメディアの取材要請に応じる機会を大幅に減らした。言葉を武器とする政治家の発信力は失われていった。
 知事は辞意表明翌日の臨時記者会見で「4期目は県議会とギクシャクした。原因の一端が私だから辞めることが県民のため」と述べ、自身が分断を生んだと認めた。県職員は「最近は真意が伝わらないことに苦しんでいた。知事の本心だろう」とおもんぱかる。
 4期15年の任期中、独自の視点や人脈で新風をもたらし、ラグビーワールドカップや東京五輪・パラリンピックの誘致、中部圏での新たな経済圏形成の取り組みなどの成果も出した。ただ、県議会で過半数を占める自民会派との対立は解消せず、肝いり事業はことごとく難航した。
 リニア工事に伴う南アルプスの環境保全をはじめ、浜松市の新野球場建設、熱海市土石流災害の被災地復興、人口減少、産業の低迷。知事は県政に多くの課題を残したまま、県庁を後にする。ある県OBは川勝県政には将来を見据えた施策が不足していたと指摘し、こう案じる。「県発展に向けた“種まき”がされてこなかった。川勝県政15年間の負の影響が出るのは、知事が去ってからだ」

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