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社説(3月31日)ギャンブル依存症 改めて危険性の周知を

 ギャンブル依存症が人生を狂わせ、周囲も巻き込んで深刻な事態を招くことを改めて認識させられた人も多いのではないか。米大リーグ、ドジャース大谷翔平選手の専属通訳を務めていた水原一平氏が違法賭博問題で解雇され、依存症だと告白した。大谷選手だけでなく、水原氏の家族にも計り知れないダメージを与えたのは想像に難くない。
 国内のギャンブル依存症の実態や対策の遅れはカジノ合法化に向けた議論の中で社会問題として取り上げられ、対策強化の必要性が指摘された。2018年にはギャンブル等依存症対策基本法も施行された。ただ、昨年4月に大阪府・市が国に申請したカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備計画が認定された後、依存症への関心は薄らいでいた。
 国内外で大きな注目を集める水原氏の違法賭博問題を個人的なスキャンダルで終わらせてはならない。国や自治体などは依存症の危険性を訴え、対策に本腰を入れる契機にしてもらいたい。
 厚生労働省の21年の発表によると、国内で競馬、競輪といった公営ギャンブルやパチンコ、スロットなどの依存症が疑われる人は推定で196万人に上る。その後もコロナ禍の外出自粛を背景にネットで公営ギャンブルに興じる人が一気に増えた。さらに違法なオンラインカジノの利用も急増している。依存症の増加が懸念される状況にある。
 依存症は多額の借金や、借金返済のための犯罪の原因になる場合がある。貧困や虐待被害など家族が犠牲になるケースも目立つ。友人や仕事の関係者が巻き込まれることもある。まだ捜査中だが、水原氏は違法なスポーツ賭博に手を出して巨額な借金を背負い、その支払いとして大谷選手の口座から7億円近くが賭博の胴元に送金されていたと報じられている。
 日本ではスポーツ振興を目的にスポーツ賭博の解禁を探る動きがある。サッカーJリーグやバスケットボールBリーグを対象に例外的に導入されているスポーツ振興くじの現状も勘案しながら、依存症対策がどのように講じられるか今後の議論を注視したい。
 ギャンブル依存症は病気の一つで、その治療は保険適用の対象となっているが、実際に治療を受けている人はごくわずかだ。周知に力を注ぐ必要がある。ただ、重大な事態に陥る前に治療を促そうにも、水原氏のように周囲に気づかれないことも多い。
 ネットの普及で未成年者がギャンブルに近づきやすい環境にある。依存症になると、人生を棒に振り、周囲に多大な迷惑をかけてしまうこともあると、教育の現場や家庭でしっかり伝える必要がある。

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