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社説(4月16日)医師の残業規制 地域医療維持と両立を

 働き方改革関連法に基づく時間外・休日労働の上限規制が今月から病院勤務医にも導入された。現在の医療提供体制は、自己犠牲的な医師の献身に大きく依存し、これまで長時間労働解消の機運も乏しかった。実効性ある働き方改革を進め、就業環境を見直す契機にしなければならない。
 ただ、残業規制の導入で大きな影響を受けるのが地域医療だ。静岡県は、医師数が都道府県別で下位3分の1の「医師少数県」。全国平均と比べ、特に病院勤務医が少ない。地域医療維持との両立を図るため、医師の確保に知恵を絞る必要がある。
 勤務医の長時間労働では、心身共に疲弊し、命を落とす事例も起きている。2022年、神戸市内の病院に勤めていた当時26歳の男性医師が過労でうつ病を発症し自殺した。死亡直前まで約100日間連続で勤務し、時間外労働は月200時間を超えていたという。悲劇を繰り返してはならない。
 厚生労働省の22年調査で、時間外労働が「過労死ライン」相当の年960時間を超える勤務医が約2割に上った。外科や産婦人科、救急科などは特に長時間労働の傾向が強い。医師の疲弊は、重大なミスも招きかねない。
 しかし、国が定めた勤務医の時間外労働の上限は、原則年960時間で過労死ラインレベル。一般業種の最長年720時間を大きく上回る。救急やへき地医療などを担う医師については、上限を年1860時間まで認める特例も設けられた。勤務環境の改善を進めながら、なるべく早く特例の廃止や上限時間の短縮を図るべきだ。
 現場の運用いかんでは規制が骨抜きにされる懸念もある。病院が労働基準監督署から「宿日直許可」を得ると、夜間や休日の患者対応に備えた待機は労働時間とみなされない。研究や教育のために居残った時間が自主的な「自己研さん」と判断されると、これも労働時間から除外される。こうした仕組みが抜け道とならないよう、国による厳格なチェックが不可欠だ。
 地域医療では、大学病院が派遣医師を引き揚げる動きも不安視される。県は本年度からの保健医療計画に26年度の県内医師数を20年末より345人多い8317人とする数値目標を盛り込み、県内医療圏ごとの医師偏在の解消にも努めるとした。着実に推進してほしい。
 現場では複数主治医制や、医師が本来やるべき仕事に集中できるよう業務の一部を他の専門職に任せるタスクシフトなどの工夫も急がれる。患者の側にもできることはある。夜間や休日の緊急性が低い受診を控え、地域のかかりつけ医の積極活用が重要だ。

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